読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

みなさん、さようなら 久保寺健彦著 幻冬舎 2007年

 第一回パピルス新人賞受賞作品。久保寺健彦デビュー作。
 小学校を卒業した少年の、その後の17年を描いた作品。
 ネタばれあります、すみません;

 芙六小学校のおれたちの学年は全部で108人。六年生の時一人いなくなり、卒業したのは107人。みんな、団地に住んでいた。
 卒業後、「おれ」渡会悟は母親のヒーさんに、中学校へは行かないと宣言する。中学校教師も家に来たしカウンセラーらしき人物とも会わされたが、悟の意志は変わらない。ヒーさんも悟の我儘を受け入れてくれて、学校へ行かない悟の生活が始まった。
 毎日コミュニティセンター(通称コミセン)の図書館に通って本を読み、映画を見る。基礎英語を聞き、学校から帰って来た友達と団地をパトロールする。大山倍達に憧れ、朝5時に起床して空手の練習に励む。いじめにあって登校拒否になった薗田憲昭と仲良くなる。隣りの部屋の松島有里とファーストキスを体験する。中学卒業証書を手にして、団地の一階にあるケーキ屋「タイジロンヌ」に就職し、ケーキ職人を目指す。
 松島が他の男と付き合い始めて激しく落ち込む。8年目、小さい頃から好きだった緒形早紀と恋人同士になる。短大卒業後、団地の中の保育園に勤め始めた早紀とは理想の恋人だった。真面目に結婚まで考えたのに、早紀は団地から出られない悟を不安に思い、とうとう悟に別れを切り出す。
 団地の住人は櫛の歯が抜けるように減って行き、治安も悪くなる。不良グループが空き室に忍び込む騒動、繰り返される放火騒ぎ。とうとう人が襲われ、負傷者まで出た。悟は「タイジロンヌ」の跡を継いだものの、パートナーを組んだ薗田の具合が悪くなり、結局閉店に追い込まれる。
 外国人が増えた団地の中で、悟はブラジルから来た少女・マリアと出会う。血の繋がらない日本人の父親・堀田に酷い目にあっているらしいと分かった悟は、ケーキ教室の傍ら、マリアを庇う行動に出る。なるべくマリアが父親と二人きりにならないよう気を配るが、とうとうキレた堀田に、仲間二人と共に襲われる。
 ナイフを手に持った相手三人に、恐怖で身が竦む。振りかぶった相手の行動に、あの日の悪夢が重なる。…

 久保寺さんの作品を読むのは二冊目、『ブラック・ジャック・キッド』以来です。
 …こっちの方が断然面白かった。 
 悟の一人称で語られる文章。学校へ行かない理由と言うか団地を出られない理由が大オチになるのかな、どうもいじめでもなさそうだし、周りが納得してる妙な雰囲気あるし…と不思議に思ってたら、大体半分位でその原因は明かされました。
 いや~、以降、読書スピード上がりましたね~。それまでも決して読みにくくはなかったのですが、まぁ思春期男子の下半身事情なんかあまり知りたくはない内容でしたし(苦笑;)。早紀との恋に悩んで、離れていくのにどうしようもなくて、「タイジロンヌ」の師匠との別れとか薗田の壊れ方とか団地の荒れ様とか、狭い団地の中でのことなのにジェットコースターのよう。どんどん切なくなって行くし。
 でも、たった5ページの最終章を読んで思ったのは、「これは『モチモチの木』だったんだわ」なんですけど(←こらこら)。
 狭い世界から出られない自分と言うのは、規模の違いはあれ、自分も同じだよなと身につまされました。はっきり出ていけた悟が羨ましくもあり、でも悟はケーキ職人の腕はあるものの学歴は中卒でヒーさんもマリアもいなくて、これから大変だろうなぁ。