読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

阪急電車 有川浩著 幻冬舎 2008年

 阪急電鉄今津線宝塚方面を舞台にした連作短編集。

 阪急電鉄西宮北口方面行き宝塚駅
 電車の中、征志は宝塚中央図書館でよく会う女性を見かける。車窓の風景、川の中州にある「生」の字を見て興奮する彼女。話しかけてきた彼女を、彼は逆瀬川駅で追いかける。
 
 宝塚南口駅
 翔子は宝塚ホテルの引き出物袋を片手に電車に乗り込む。真っ白なドレス、気合いの入ったメイク。花嫁を遙かに凌いで艶やかな彼女は、付き合って五年、結婚話まで進んだ彼を寝取られ、その復讐を果たした所だった。

 逆瀬川
 逆瀬川駅で降りた微笑ましい二人を見送って、時江と孫娘・亜美は電車に乗り込んだ。泣いている白いドレスの女性に野次馬根性で話しかけ、小林駅に寄ることを進める。

 小林駅
 老婦人の勧めに従って小林駅で降りた翔子。ツバメの巣、小さなスーパー、七夕飾り。ささくれていた心が、段々収まっていくのを翔子は感じる。

 仁川駅
 小林駅で降りた白いドレスの女性の噂をするミサとカツヤ。ミサの言葉がカツヤを苛立たせ、その様子に近くにいた女の子は怯えて泣き出す始末。女の子を連れていた老婦人の一言で、ミサはカツヤと別れる決意をする。

 甲東園駅
 女子高生が数人乗り込んで来た。中の一人「えっちゃん」は社会人と付き合っているらしい。「絹」と言う漢字も読めない彼氏のアホさ加減をネタにしつつ、でも彼女を大事にしている事がありあり伝わるその会話に、ミサは我が身を省みる。

 門戸厄神
 甲東園駅で乗った圭一は大学一年生。どうやら同じ学校に通っているらしい女の子・美帆が窓の外、五機編隊で飛んでいるヘリコプターを興味津々で見ているのを見て、思わず話しかける。

 西宮北口駅
 翔子は清々して、人に押されて割れてしまった引き出物のタンブラーを捨て、ミサはカツヤの部屋へ自分の荷物を引き上げに行く。「えっちゃん」たちはアイスを食べにショッピングビルへ、圭一は美帆と携帯電話番号を交換する。

 半年後。

 宝塚方面行き西宮北口駅
 おばさんの集団がブランドバッグを放り投げて席を取る中、ミサは中学生の頃自分を叱ってくれた老人を思い出す。老婦人に一刀両断され別れる決意をしたカツヤとのいざこざも。

 門戸厄神
 おばさん集団の一人が具合を悪くして門戸厄神駅で降りた。つきあいで一緒に降りたミサは、彼女がその行為を恥ずかしく思っていたこと、ストレス性の胃炎にまでなっている事を知り、「行きずりの」忠告をする。

 甲東園駅
 レベルの高い大学を受けるよう勧められ、ストレスをためていた悦子。周囲が思うように成績も伸びず切り捨てられ、投げやりになって社会人の彼に当たる。彼は彼女の様子がおかしいことを、ちゃんと気付いていた。

 仁川駅
 甲東園駅で乗ってきた女の子は、線路脇のワラビを採りたいと言って彼氏に却下されている。代わりに仁川から甲山へハイキングに行こう、と提案する彼。この半年、二人はゆっくりと、でも正攻法で恋人同士になっていた。

 小林駅
 おばさんに席を取られた翔子は、引っ越してきたばかりの小林駅で降りる。構内で見かけたのは小学生の女の子たちの「仲間はずれごっこ」。誇り高く乗り切ろうとする少女を励ましハンカチを貸した後、次の電車に乗ってきたミサに声を掛けられる。

 逆瀬川
 時江はミニチュア・ダックスのケージを持って、孫娘の亜美と電車に乗った。あまりにも姦しい主婦集団に目を着けられ剣呑な雰囲気の中、時江たちを援護したのは征志とその恋人・ユキだった。

 宝塚南口駅
 おばさんたちをやりこめた後、征志とユキはこの半年を振り返る。図書館の後、飲んべえの彼女と過ごした楽しいデートを。

 そして、宝塚駅
 梅田行きの電車に乗り換える二人。征志はユキに、西図書館も利用できる小林での同棲を持ちかける。…
 
 私の利用する図書館では予約者が760人を超す人気作品。何しろ舞台になってる阪急電鉄今津線沿線ってのは地元ですから(笑)。
 生まれた時から阪急電車今津沿線の住人です。今も毎日通勤手段として利用してます。自動改札になったのも自動券売機の導入も、その券売機が立体になったのもどこよりも早かった新しい物好きな電鉄。かつて「全車両の98%が冷房車になりました」と広告を打ったこともあったんですが、入ってない今津線にもポスター載せるのはどうでしょう、「残り2%ってここやんか!」と突っ込み入れまくり(笑)。
 いやいや、すっごく期待して読んだのですが。
 …あれ? 何か違和感。
 話の面白さに関係なく、細かい所が気になる。
 まず、地元民は西宮北口を西北とは略さない。ただの「北口」。「西北」は他の電鉄、阪神電車やJR利用者が使う略称です。社会人になって初めて「西北」と言う人に出会い、「それ、どこ??」と思いましたよ; それに、南口は寂れてない。あそこは沿線で一番最初に開発された所です。もう30年くらい前かな、サンリオとか入って、あそこからテコ入れは始まったんです。これは有川さん移住民だからだろうなぁ、実感として違うんでしょうね。
 甲東園にある有名私学は関学なんですが、受験は2月1日から。駅が混んで大変な状況になります。だから3月まで頑張れば、ってのは変。ここで降りる高校って県西かな、でも県西通う生徒って宝塚方面の子が多い気がするんだけど。関西弁を喋る人と喋らない人がいるのはどうしてなんでしょう。門戸厄神は改札出なくても向かいのホームに渡れるし、小林駅の階段裏にあるのはエスカレーターじゃなくてエレベーターね(←細かい・笑 …有川さん、文庫化の時にでも修正して下さい・笑)。
 舞台が身近過ぎる上、なまじ描写が詳しいだけに細かい違いが気になってしまう。まるで知らない場所の方が、きっとお話を素直に楽しめただろうなぁ。
 でも、この近辺が「便利な田舎」であることに間違いはありません。小林駅では七夕飾りどころか柿干してたこともあるし(笑)。
 有川さん住んでるの小林なのかな、やけに小林だけ詳しいもんなぁ。行きと帰りで半年も間をあけてその後を見せる構成はさすが。成立したどのカップルも微笑ましくて、「もう勝手にやってくれ」(笑)。美帆ちゃん、仁川の上の方へ行ったらつくしも生えてるから、摘んでかえって佃煮にしてね♪
 それにしても、北口から見える「屋上に鳥居のあるビル」ってどれ!? 今日の帰り、思わず探してしまったわ!

追記:「北口から見える屋上に鳥居のあるビル」判りました。近すぎて気が付いてませんでした; …っていうかあれ、駅ビルやん!
 有川さん、よく気が付いたなぁ。