読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

失われた町 三崎亜記著 集英社 2006年

 三崎亜記作品、三作目。
 ネタばれあります、すみません; 

 30年に一度起こる「消滅」では、一つの町の住人が忽然と消えてしまう。
 60年前には倉辻が、30年前には月ヶ瀬が消滅した。その町への封鎖は勿論、住人に関わるもの、写真や手紙、町名の載った書籍まで始末してしまわなければ、そこから「汚染」は広がって行く。失った人を悲しむことも許されない、「町」に捕われてしまうから。

 月ヶ瀬での回収作業に追われる茜と信也さん。拠点となった隣町・都川で、茜は月ヶ瀬町を見下ろせるペンション『風待ち亭』の主人中西さんと出会う。中西さんは月ヶ瀬で奥さんと娘夫婦を失くしていた。毎週のように『風待ち亭』を訪れ、中西さんとお茶を楽しむ日々。やがて、そこから見える誰もいない筈の町に灯が点る「残光現象」を見に、色々な人がやってくる。その中には幼馴染みの男の子・潤を失くした中学生・由佳の姿もあった。…:『風待ちの丘』

 消滅管理局に勤める白瀬桂子は「倉辻」の生き残り。消滅耐性を持つ彼女はその事を打ち明けたばかりに恋人と別れる羽目になった。その一週間後、桂子は公園で写真家の脇坂と出会う。彼女にモデルになってくれ、と言いながら結局シャッターを押せない脇坂。彼には撮る事によって失ったものがあった。脇坂は自分の過去にけじめをつけるため、生まれ故郷の「居留地」に戻る。手には「澪引き」代わりの桂子のスカーフを持って。…:『澪引きの海』

 その日、茜は都川のギャラリーで、月ヶ瀬の風景が描かれた絵を見た。描いたのは藤島和宏。月ヶ瀬の住人だったのに、その日たまたま町を離れていて消滅を免れた青年。だがその後遺症で、町や住人に関する多くの記憶を失っていた。茜に連れられて『風待ち亭』に通ううち、和宏はコックとしてペンションで働くことになる。古びた弦楽器を爪弾き記憶にない曲を奏でる和宏。茜をモデルに油絵を描こうとするが、それは忘れた筈の恋人の姿となる。和宏は夜中、一人で月ヶ瀬に戻り、「町」に捕われてしまう。自力では出てこられない和宏を、茜は管理局の白瀬さんと共に連れ戻しに向かう。彼女たちを導くのは茜と信也に発見された月ヶ瀬の生き残り、三歳の少女。何とか和宏を取り戻したものの、和宏の記憶は27歳で止まっていた。…:『鈍の月映え』

 「本体」の妻を、お腹の子供と共に失った英明。会いに行った「別体」の彼女は事務員として働きながら、音を忘れた古奏器に音色を思い出させる仕事をしていた。本体が消滅した以上、いずれ自分も消えるだろうと淡々と語る彼女に、英明は自分と一緒に暮らさないかと提案する。二年後、月ヶ瀬の残光現象の終焉と共に、別体の彼女の命も終わる。『風待ち亭』で残光を見ながら和宏の弾く古奏器に送られ、後には二人の子供・ひびきを残して。…:『終の響い』

 三年半後、桂子は脇坂の乗っていた車と同じ車を見かけ、思わず持ち主に声をかける。車の持ち主は脇坂の友人。汚染のため視力を失いつつある彼女に、脇坂に会いたいなら公園に行くよう告げる。公園で桂子が見つけたのは脇坂の右腕と自分のスカーフ。桂子は脇坂を探して「居留地」に向かう。…:『艫取りの呼び音』
 
 聡明な美少女・坂上由佳に、男除けに「つきあってることにしてくれ」と言われた横山勇治。由佳は汚染対象「月ヶ瀬」に関することを調べているらしい。由佳のかつての同級生・潤の消滅を聞き、町に捕われるな、と話す勇治。一瞬由佳の心も動いたかに見えたが、やがて彼女の元に瓶詰めにされ川に流された潤からの手紙が届く。そのまま姿を消す由佳。4年後、再会した彼女は消滅についての研究に全てを費やすようになっていた。勇治も、消滅耐性を持つ少女・のぞみも、自分自身も利用して。…:『隔絶の光跡』
 
 高校生になったのぞみ。自分が月ヶ瀬の生き残りであること、体の中に消滅耐性を持つ音色を醸造させられている実験体であることを知り、深く傷つく。自分の生まれた町・月ヶ瀬を訪れ、白瀬に連れ戻されるのぞみ。だが育ての父・信也ものぞみを追って月ヶ瀬に入り、「町」に汚染されていた。信也を現実に戻すため、のぞみは自分の「内なる町」を「月ヶ瀬」に同調させて信也を迎えに行く。…:『壺中の希望』

 30年後、次の消滅。和宏が描いた絵を元に消滅地を確定し、潤が作った消滅対抗音の種をのぞみの中で育てて町に流し、二人のひびきが町の様子を伝える。指揮を取るのは由佳。今は亡き桂子の跡を継いでいる。誰もが自分の汚染を覚悟し、次の消滅を食い止めようと努力する。…

 
 初めに言っておきます。これは好みの話なんだ、好みの話なんですが。
 …読みにくかった; 時間かかりました。
 最初は現代日本を基本にした異世界、みたいな舞台設定を考えておけばいいのね、と思って読み始めました。そしたら少しずつ違和感が出てくる。自分が思っていた世界とはどうも違うみたいだ、とこちらも少しずつ頭の中で軌道修正する。「西域」「居留地」「別体」etc…。私の場合、各章ごとにこの作業は続き、何だか疲れてしまいました。この説明の仕方では、すみません、私、設定が把握し辛くてねぇ; 
 この展開、舞台背景の説明を最初にせず小出しにしていくやり方は、『新世紀エヴァンゲリヲン』以降のSFアニメを連想したり。内容が強烈に面白かったら「何、これ、どう言うこと!?」ってんでがんがん惹き付けられるんですが、この作家さんの淡々とした筆致には向いてないんじゃないかしらん。
 登場人物も誰が誰か分からなくなって、折角の伏線に今いち気が付かなかったり。…いや、これは私の記憶力のせいですね(苦笑;)。「茜」「由佳」は呼び捨てなのに「中西さん」「桂子さん」なんかはどうしてさん付けだったんでしょう、違和感があったのは私だけ?? 『終の響い』の章なんかではちゃんと感動して泣きそうになったし、「プロローグはエピローグである」構成も成る程、と思ったんですが…;
 あと、この装丁、違うと思う。一目見たときは「いい」と思いましたが、途中で感想が変わりました。本編エピローグだけなら、透明カバーに人物だけが刷られて、背景の町の絵と別れるこの装丁はいい。でも私なら、イラストは夜にする。いびつな月、青白く照らされる夜の町。できれば高射砲塔。カバーには残光。
 いや、本当、話は好みなんですがねぇ。…う~ん;;