読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

天平冥所図会 山之口洋著 文藝春秋 2007年

 奈良時代を舞台にした宮廷歴史ファンタジー、連作短編小説。

 『三笠山』:
 天平18年。備前国から平城京に旅する一行に、二人の娘が交じっていた。一人は吉備真備の娘・由利、もう一人は藤野別真人広虫。宮廷で采女として出仕するためにやって来た二人は、途中で一人の子供を拾う。年の頃は10歳位、百世と名乗る少年は、郷里で母を亡くし、平城京で働く父を頼ってはるばる丹波篠山から旅して来たと言う。
 大仏鋳造のためタタラで働く父・高鳥は、だが、行方不明になっていた。三笠山のタタラ場は貴重な金属や炭の盗難を防ぐため、周りを厳しく竹矢来で囲まれている。人足帳にも高鳥の名は載っており、そう簡単に人がいなくなる状況ではない。仲間の人足も何かを知っている様子だが口が重く喋らない。
 吉備真備の部下・葛木連戸主は広虫や由利と共に高鳥の行方を捜す。タタラ長・猪辺、高鳥と昵懇だったと言う娼婦、何かを語りそうだったのに殺されてしまった釜番。先に鋳上がった大鐘の鳴り響く中、高鳥の亡霊が百世に乗り移る。

 『正倉院』:
 10年後、戸主40歳。広虫と結婚して非田院と施薬院で親を失った孤児の世話をする日々。
 大仏建立から4年、聖武天皇崩御した。光明皇太后は嘆き悲しみ、天皇御遺愛の品々を東大寺に献納すると言い出した。七十七忌の法要まで日がないというのに、それまでに献納品一つ一つを目利きし、保管方法を書いた献物帳を作らねばならない。責任者として白羽の矢が立ったのは戸主。目利きできる者が出来ない者に伝授する暇もなく、過労死する役人も出る中、この献納儀式が藤原仲麻呂橘奈良麻呂らの権力闘争の道具に使われ、目録作りの邪魔までされる。
 死んだ畷のためにも無事に儀式を終わらせなければ。まるで政治音痴の戸主は広虫を通じ、光明皇太后孝謙天皇の仲を取り持つ。

 『勢多大橋』:
 さらに6年。光明皇太后が鬼籍に入って二年。橘氏らは滅ぼされ、自分の推す淳仁を帝に据えて、仲麻呂はわが世の春を謳歌する日々。だが看病禅師・道鏡孝謙上皇が恋仲になると、道鏡が自分の地位を脅かすのではないか、と疑心暗鬼になる。
 一方、若狭国からの帰り、戸主は川に落ちて死んでしまう。亡霊となって、やはり亡霊であるかつての上司・賀茂角足と会い、仲麻呂藤原永手への恨みつらみを聞いた戸主。一年以上かかって何とか広虫と再会するが、折しも仲麻呂道鏡と、次いで目障りな吉備真備藤原永手を潰そうと陰謀を巡らせている真っ最中だった。真備はかつての教え子・孝謙上皇と我が身を守るため仲麻呂を討つことを決意、角足もその意に乗って恨みを晴らす。

 『宇佐八幡』:
 孝謙上皇称徳天皇となり、再び帝位に就いて5年。人の良い禅僧だった道鏡は権力に取り憑かれ、すっかり人が変わってしまった。病がちの天皇を慰めつつ、あろうことか宇佐八幡大菩薩の神託があったとして自分が天皇になろうとまでする。御神託の真偽を確かめに行く役目を負ったのは広虫和気清麻呂姉弟道鏡の意に反した事を述べれば逆鱗に触れるだろう。戸主も見守る中、清麻呂が神託を述べる。…


 この作家さんもファンタジーノベル大賞出身。一応追いかけているのですが、どうしてだろう、何故か私この人の作品には点数が辛い。
 エピソードの挟み方とか多少ぎこちない所はあるにせよ、面白かった。この辺りの歴史は私にまるで知識がないこともあって、とてもお勉強になりました(笑)。正倉院の宝物って、こういうことが切っ掛けで出来たのね~。
 ただね~。何か人物造形が妙にステレオタイプ。悪人は悪人、善人は善人。分かり易い、って言ったらそうなんですけど。登場人物大体標準語なのに、「…何でこの人だけ関西弁??」と思う人もいたり。道鏡の性格が変わってしまった理由、って読んでる人みんな察しがつくだろうし。
 新聞や何やで紹介されてたんですけどね~。で、大体誉められてて、それも分かるんですけどね~。
 …どうしてかなぁ。