評論家・小谷真理さんが2007年の三冊に上げていた作品の一つ、互いに争う一族の二人の王を描いたものがたり。
読み終えて、とにかく誰か読んでくれ、と思った作品です。
興味を持った方は、これから粗筋を書いてしまいますが、できれば何の予備知識も入れず読んで欲しい。
読み終えて、とにかく誰か読んでくれ、と思った作品です。
興味を持った方は、これから粗筋を書いてしまいますが、できれば何の予備知識も入れず読んで欲しい。
百数十年前、双子の穐王子と廈王子が翠国の王位を争って以来、二人の子孫・鳳穐と旺廈の一族はお互いを憎しみあって来た。7年前、鳳穐は王城・四隣蓋城を襲い、旺廈の直系を長子・薫衣(くのえ)を除いて皆殺しにする。薫衣は人里離れた森の中の一軒家で、一族の者が近付かないよう見張られながら、迪学(じゃくがく=生きる指針)を教える迪師夫婦と共に穏やかに生きてきた。私利にとらわれないように、小事に目を奪われて大事をおろそかにしないように、困難を理由に義務を怠らないように。
十五歳の時、薫衣を頭領に据えて鳳穐を滅ぼそうと、旺廈の残党が小屋を襲う。その襲撃は結局失敗し、薫衣は都へ引き立てられる。今度こそ殺される、と思っていた薫衣に、若き鳳穐の頭領・穭(ひづち)は意外な提案を申し出る。――「諍いをやめないか」。
30年と間の開かない戦で、翠国は疲弊していた。流行り病で鳳穐の直系も穭とその妹・稲積(にお)を残すのみ。海の向こうでは大陸が一つの国家に統一され、こちらに攻め入る準備をしている、と言う情報も入っている。これ以上国力を自ら削っている場合ではない。
百年以上続いている憎しみを止められるのか。自分の心にも相手の心にもその想いはあると言うのに。薫衣は散々悩み考え、しかし誰かが一歩目を踏み出さねばならないと、穭の言葉を受け入れる。稲積を妻に迎え、自由を奪われたまま穭の臣下となる形を取る。
その行為は、穭以外の誰の理解も得られなかった。薫衣は軽蔑や憎しみの視線に耐えねばならなかったし、穭は何故殺さないと言う昔ながらの家臣をなだめながら旺廈狩りを止めさせねばならなかった。地位を与え、録を増やし、時には暗殺し、やがて薫衣と稲積の間に子供が出来た頃、大陸からの軍船が翠国を襲った。
薫衣は総大将として、敵艦船を撃退する。軍師も副大将も面子を潰さない方法で、地元の漁民を味方に引き入れ、「火薬」と言う新兵器を持つ敵を撃ってみせる。穭が嫉妬してしまうほど見事に。
手柄を立てたことによって、薫衣暗殺の動きは却って激しくなった。穭はそれを止めさせるために、薫衣を顧問官に引き立てる。薫衣は穭に、穭が翠国のためにならないことをした時は、迷わず自分が穭を殺して蜂起することを宣言する。
相変わらず、薫衣を陥れようとする動きは耐えない。罪をでっち上げられたこともあったし、旺廈の生き残りが村を作って反乱を起こそうとしたことも。薫衣が迎えた二人目の妻・河鹿が旺廈の幼馴染みだと分かった時には、穭は殺意を抱くほどに薫衣を罵ったが、それでも二人で切り抜けた。
薫衣33歳の時、弾琴一族が反乱を起こす。その平定に向かった薫衣は、それが旺廈の残党によって起こされた計画的なものだと知る。夜中、部屋に忍び込んできた旺廈の生き残り・駒牽は薫衣に、全ての準備は整っている、今こそ蜂起て、国中が呼応すると進言する。
全貌を聞き、それでは駄目だ、と判断する薫衣。だがその決断は理解されず、河鹿とその子・鵤を喪う結果となった。
もはや薫衣は旺廈の頭領ではなくなった。誰も認めなくなった。4年後、旺廈は傍系の男を新たな頭領に立て、反乱を起こす。その平定、説得に向かったのは、やはり薫衣だった。…
十五歳の時、薫衣を頭領に据えて鳳穐を滅ぼそうと、旺廈の残党が小屋を襲う。その襲撃は結局失敗し、薫衣は都へ引き立てられる。今度こそ殺される、と思っていた薫衣に、若き鳳穐の頭領・穭(ひづち)は意外な提案を申し出る。――「諍いをやめないか」。
30年と間の開かない戦で、翠国は疲弊していた。流行り病で鳳穐の直系も穭とその妹・稲積(にお)を残すのみ。海の向こうでは大陸が一つの国家に統一され、こちらに攻め入る準備をしている、と言う情報も入っている。これ以上国力を自ら削っている場合ではない。
百年以上続いている憎しみを止められるのか。自分の心にも相手の心にもその想いはあると言うのに。薫衣は散々悩み考え、しかし誰かが一歩目を踏み出さねばならないと、穭の言葉を受け入れる。稲積を妻に迎え、自由を奪われたまま穭の臣下となる形を取る。
その行為は、穭以外の誰の理解も得られなかった。薫衣は軽蔑や憎しみの視線に耐えねばならなかったし、穭は何故殺さないと言う昔ながらの家臣をなだめながら旺廈狩りを止めさせねばならなかった。地位を与え、録を増やし、時には暗殺し、やがて薫衣と稲積の間に子供が出来た頃、大陸からの軍船が翠国を襲った。
薫衣は総大将として、敵艦船を撃退する。軍師も副大将も面子を潰さない方法で、地元の漁民を味方に引き入れ、「火薬」と言う新兵器を持つ敵を撃ってみせる。穭が嫉妬してしまうほど見事に。
手柄を立てたことによって、薫衣暗殺の動きは却って激しくなった。穭はそれを止めさせるために、薫衣を顧問官に引き立てる。薫衣は穭に、穭が翠国のためにならないことをした時は、迷わず自分が穭を殺して蜂起することを宣言する。
相変わらず、薫衣を陥れようとする動きは耐えない。罪をでっち上げられたこともあったし、旺廈の生き残りが村を作って反乱を起こそうとしたことも。薫衣が迎えた二人目の妻・河鹿が旺廈の幼馴染みだと分かった時には、穭は殺意を抱くほどに薫衣を罵ったが、それでも二人で切り抜けた。
薫衣33歳の時、弾琴一族が反乱を起こす。その平定に向かった薫衣は、それが旺廈の残党によって起こされた計画的なものだと知る。夜中、部屋に忍び込んできた旺廈の生き残り・駒牽は薫衣に、全ての準備は整っている、今こそ蜂起て、国中が呼応すると進言する。
全貌を聞き、それでは駄目だ、と判断する薫衣。だがその決断は理解されず、河鹿とその子・鵤を喪う結果となった。
もはや薫衣は旺廈の頭領ではなくなった。誰も認めなくなった。4年後、旺廈は傍系の男を新たな頭領に立て、反乱を起こす。その平定、説得に向かったのは、やはり薫衣だった。…
私が、もっと評価されていいはず、と思う作家さんの筆頭に上げるのがこの沢村凛さん。ただ見え易い欠点(魅力でもあるのですが)を持っていて、そこが何とかならないのか、ともずっと思っていました。
ああ、やった、と思いました。昇華した。主題を、ものがたりに封じ込めてみせた。これなら薦められる。
互いに憎しみあう二種族の争いを止めさせるために、穭は決断し、薫衣は耐える。英明な二人の頭領の努力が描かれます。特に薫衣に降りかかる苦難。仕方なく駒牽たちを斬り伏せ、でも「おまえたちは、誰もさわるな」と命令する哀しさ。理解されないまま、妻と子供も喪う。彼の払った犠牲に、もうぼろぼろ泣きました。
この作家さんは、間違いなく「主張したいこと」を持っている作家さんです。ただその「言いたいこと」が強すぎて、ものがたりから透けて見えてしまっていた。読者にとってはそれは結構腰が引けてしまうほどで、だからどうにもこの作家さんの作品は人に薦めにくかった。でも物語の面白さに徹した『瞳の中の大河』や恋愛小説『あやまち』『カタブツ』なんかでは、この人の魅力は今いち発揮されてないような気がしていました。…個性って難しい。
お薦めです。興味持たれた方、読んでみて下さい。
で、これを面白いと思われたら、デビュー作『リフレイン』も。ただしこっちは、ものがたりの面白さだけに注目して読んでみて下さい。注意書きの要る推薦文、てのも何ですが(笑)。
ああ、やった、と思いました。昇華した。主題を、ものがたりに封じ込めてみせた。これなら薦められる。
互いに憎しみあう二種族の争いを止めさせるために、穭は決断し、薫衣は耐える。英明な二人の頭領の努力が描かれます。特に薫衣に降りかかる苦難。仕方なく駒牽たちを斬り伏せ、でも「おまえたちは、誰もさわるな」と命令する哀しさ。理解されないまま、妻と子供も喪う。彼の払った犠牲に、もうぼろぼろ泣きました。
この作家さんは、間違いなく「主張したいこと」を持っている作家さんです。ただその「言いたいこと」が強すぎて、ものがたりから透けて見えてしまっていた。読者にとってはそれは結構腰が引けてしまうほどで、だからどうにもこの作家さんの作品は人に薦めにくかった。でも物語の面白さに徹した『瞳の中の大河』や恋愛小説『あやまち』『カタブツ』なんかでは、この人の魅力は今いち発揮されてないような気がしていました。…個性って難しい。
お薦めです。興味持たれた方、読んでみて下さい。
で、これを面白いと思われたら、デビュー作『リフレイン』も。ただしこっちは、ものがたりの面白さだけに注目して読んでみて下さい。注意書きの要る推薦文、てのも何ですが(笑)。