読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

厭犬伝 弘也英明著 新潮社 2007年

 第19回〈日本ファンタジーノベル大賞〉大賞受賞作品。
 ネタばれ、になってるかもしれません、出たばかりの本ですみません;

 死人から生える「汚木(よごれぎ)」を材料にして仏肢像「仏」を作り、それを依姫と呼ばれる女たちを媒介に、念で操り対戦する「合(あわせ)」と言う競技がある、魑魅魍魎が跳梁跋扈する異世界が舞台。
 「仏」の出来は苗床になった人間にも大きく左右される。七路派の仏師の頭首・犬暁はよりよい仏を彫るため、これと見込んだ人間を攫って殺して汚木を作ると言う禁忌に手を染める。犬暁を摘発に向かったのは岳稜警、美貌の少年・厭太郎。逃げようとした犬暁は霊山山中で足を滑らせ、崖から落ちて死んでしまう。その時犬暁が持っていた仏の、あまりの出来の良さに厭太郎は感嘆。自らも「合」を楽しむ厭太郎はその仏「力士」を自分の物にしてしまう。
 本来その仏は、山中に居住する皇木族アカド邑の邑祭で使用されるものだった。邑の穢れを一身に引き受ける筈だったものを奪われ、邑人たちは激怒する。自らは厭太郎に手出しが出来ず、邑のウムジは犬暁の娘・犬千代に、仇討ちと銘打って厭太郎を合で殺して欲しい、と依頼する。
 自身依姫としての素質を持つ犬千代は、仏の操者として天与の才を持っていた。父・犬暁は、造形の才を持たない長男・犬房を苛立って殺し、犬千代は後を継げない女に生まれたと虐待し、しかし自分を超える才に恵まれた次男・犬丸には嫉妬から暴力を振るうような器の小さな男であり、死んで犬千代は清々したくらいだったが、只今は跡目争いの真っ最中、多くの高弟たちを抑えて犬丸に七路派の頭首を継がせることを条件に、犬千代はその頼みを引き受ける。かくして、仏に自らの魂を吹き込んでの仕合が王府で受理された。
 お遊びでしか合をしたことのない厭太郎は、犬千代にまるで歯が立たない。幼い頃母を殺され男根を奪われた経験から、生きることにあまり執着の無かった厭太郎だが、幼馴染みの美妓・笹乃に励まされ、合の達人・鵜市たちに教えられ、徐々に仏との一体感を得ていく。
 いよいよ仕合当日。勝つのは厭太郎の「力士」か犬千代の「二面鬼」改め「四面鬼」か。互いの命を掛けて、厭太郎と犬千代は相対する。…

 ダークな『プラレス3四郎』(あえて『エンジェリック・レイヤー』とは言わない・笑)。いや、もしかしたら格闘ゲームの方が近いかな。
 世界観を掴むまで少しかかりましたが、後半は一気でしたね。「…え、ここはどういうこと??」って思う所はそこそこあるんですが、まぁ読み飛ばして(笑)。これは設定に凝るとある程度仕方ないことでもあるので。
 最後、厭太郎が負ける筈ないと思いつつ、でも犬千代にも負けて欲しくなくて、結構ハラハラしました。…だって犬千代の方が私には魅力的だったんだもの。四面鬼との一体感を得た後での攻防、何かと似てると思ってたら、映画第一弾の『エヴァンゲリヲン』ラスト近辺のアスカだったんでした。比べて厭太郎と力士とが繋がったシーンは、何か盛り上がりに欠けた感じがしたし。それにしても、女性の死亡率高いよなぁ。でもそれも含めて、作品全体にある容赦なさは好感持てました。私は読んだことないんですが、もしかして山田風太郎の作品ってこんな雰囲気なんじゃないのかな。笹乃がアカドの企みを聞き出す辺りは、多少唐突だなぁ、と思いましたが。
 ただ、これ、続編と言うか前日譚と言うか、書こうと思ったら書けるんですよね。厭太郎の母親と邑との関わりとか、皇木が汚木を育成するための秘技とか、まだ明かされていない所が多々ある。『しゃばけ』以降、いかにも続き物になりそうな話が立て続けに受賞してるんですが、個人的には私、こういう作りの作品は好きじゃないんですよ。応募作だろ、ライトノベルじゃないんだから(ラノベは元々そういう作品を募集してるからいい。←いいのかよ、私!?・笑)、一作で完結しろよ、全力注げよ、と眉間にシワがよってしまう。
 …いや、不当な感想なら申し訳ありません。
 …それにしても、新潮社の本なのに栞用のヒモが付いてないってどういうこと!?(笑)