読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

少女七竈と七人の可愛そうな大人 桜庭一樹著 角川書店 2006年

 辻斬りのように男遊びをしたいな、と思った。そうして平凡で善良な25歳の小学校教師・川村優奈は一ヶ月に七人の男と寝て、少女七竈を産む。当然、父親は誰か判らない。
 川村七竈十七歳は、たいへん遺憾ながら美しく生まれてしまった。旭川の田舎町、町内の誰かが親戚同士になってしまうような世界の狭い地方都市では悪目立ちをしてしまうほどに。親友の少年・桂雪風は母親がいんらんだと娘は美しく生まれるものだとばかげた仮説を唱える。その雪風と七竈の面立ちは、年を経るごとに似てきてしまう。七竈の父親が誰か、赤の他人でも判ってしまうくらい。
 かんばせを隠すように髪を伸ばし鉄道模型遊びをする七竈、雪風を慕い七竈に近づく後輩・緒方みすず、七竈を都会に来るようスカウトする芸能プロダクションの梅木美子、思いついたように旅から帰って来る優奈、以前優奈の同僚だった田中教諭とその死。それぞれのエピソードが、七竈自身や川村優奈、雪風の母親・桂多岐、桂雪風、川村家に引き取られた元警察犬のビショップの目から語られる。…

 私、桜庭さんの年齢を勘違いしていたかも。20代後半くらいだろうと勝手に思っていたのですが、『青年のための~』とこの作品を読んで、きっともうちょっと上だな、と思いました。盛りを過ぎた(…;)女性の書き方が本当容赦ない、尋常じゃない(笑)。こりゃそこそこ行ってないと書けないわ。
 優奈の恋愛小説でもあるんですが、七竈の、母親や生まれ育った世界からの脱出の話でもあり。ただただ母親を憎しみ慕っていた彼女が、母親と対等に話せる存在になって、ようやく呪縛から抜け出す糸口を掴む。それには親しんだ数少ないものとの決別も含まれてしまうのが哀しい。普通ならこんな母親はどうだろうと思うはずなんですが、今回嫌悪感が湧きませんでした。彼女が“ものぐるい”になる理由が明かされる前から。…不思議だなぁ。
 古風な言葉を選んで紡がれる静謐な文章。名台詞も目白押し(笑)。バイトの学生くんの台詞「恋って、痛みですよねぇ」には私も笑ってしまいました、すみません(笑)。「片づけってセンスだから、ない人にはないのよ」。…深く頷いたわ(←こらこら)。