読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

誰か 宮部みゆき著 実業之日本社 2003年

 今多コンツェルン会長・今多嘉親の私用運転手・梶田信夫が死んだ。走って来た自転車に撥ねられ、そのままコンクリート塀に頭をぶつけての事故死。犯人はまだ捕まっていない。梶田の娘は憤り、父親の本を出したいと言い出した。相談された今多嘉親は娘婿・杉村三郎にその話を振る。杉村は会長の愛娘・菜穂子と結婚して、今多コンツェルンの広報室で社内報を作っていた。
 娘二人と会ってみると、父親の伝記出版に熱心なのは妹・梨子だけだった。まだ名乗り出ない自転車の運転手に、お前が殺したのはこんな人間だったんだと突きつけてやりたい、と息巻く梨子。対照的に、姉・聡美は全く乗り気ではない。妹と10歳違う姉は、両親の、子供には知られたくない過去の一端を知っていた。
 梶田が就いていた職業・タクシー運転手の前、職を転々としていた貧しい時代、それより前トモノ玩具に勤めて安定した収入を得ていた時代。当時四歳の聡美は見知らぬ女に誘拐されたことがある、と言う。女は「こんな目にあうのは全て父親のせいだ」と聡美に繰り返し吹き込んでいた。父親が今まで行ったこともない場所に出かけ事故にあったのも何か以前の事と係わりがあるのではないか、と聡美は怯える。決まっていた結婚も、相手に迷惑を掛けるといけないと延期しようとする。
 何も知らない無垢な存在として両親にただ可愛がられた梨子、両親の暗闇に触れ、同士として認められていた聡美。お互いの葛藤が絡み合い、別の真相が浮かび上がる。梨子から放たれた言葉、聡美の哀しみは三郎にも突き刺さった。…

 再読。
 主人公の境遇は覚えてたんですが、どんな事件だったかはすっかり忘れてたので、続編読む前に確認しようと思いまして。…と言っても次作が回って来るまであと120人以上待たなきゃいけないんですが(苦笑;)。
 決して読み易くはない作家さんの作品が何作か続いてたので、宮部さんの文章の上手さにまず脱帽。…何とまぁ、すらすら読めること! 奥さんと結婚して一人娘を授かって、怖いくらいに幸せで、でも自分の親からさえも一線引かれてしまう主人公の寂しさ。姉妹の意地の張り合いに巻き込まれ、毒を吐かれながらも「こんなことには慣れている」と却って相手を思い遣る。杉村さん、優しいなぁ。
 自分の価値観を奥さんに擦り合わせる。この場合はちょっと違うかもしれないけど、これは結婚したら誰もが大なり小なりしてることなんでしょうね。
 宮部さん何かのインタビューで、「主人公が三話かけて探偵になっていく」って話してらっしゃいました。続きが楽しみです。