読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

厭世フレーバー 三羽省吾著 文藝春秋 2005年

 一つの家族をそれぞれの視点から描いた連作短編集。
 多少のネタばれあります、すみません;

『十四歳』:須藤圭一、14歳。三者面談で「中学を卒業したら働く」と宣言し、母親や担任教師をおろおろさせた。何しろ父親がリストラされて失踪して以来、家庭崩壊状態。母親は酒浸りだし、今まで見向きもしなかった兄は親父面して口出して来る。真面目だった姉は夜遊びに耽り、祖父は惚けが加速して、何もかもムカつく。早く独り立ちしたい。退部届けを出した陸上部では、顧問の先生は引き止めてくれたものの、部員、特に同級生のダンチからは「ちょうどいい」と言われる始末。
 …この野郎、見返してやる。
 新聞配達のバイトを切っ掛けに、圭一は自主トレを始める。目指すはお正月にこの地区合同で開かれる駅伝のアンカー。その選考会も兼ねる体育祭のクロスカントリーで、ダンチに大差をつけて勝ってやる。
体育祭の後、圭一は、配達先で偶然知り合った現在引きこもり中のクラスメイト・榎田の家へ走る。

『十七歳』:須藤カナ、17歳。家にいるのがイヤで、おでん屋で夜中までバイトし、終電で帰る毎日。「オレの女」扱いしてバイトを止めろと付きまとう元カレは鬱陶しいし、友達のポンはカナの名前で出会い系サイトを利用するようなバカ。オヤジから五万を騙し取り、泣いて謝るポンを無視し続けた一週間後、バカにしていたクラスメイトとバイト先のお客さん達から、カナはカンパ金を受け取る。カナは売れ残っていた不細工な子猫を手に入れる。

『二十七歳』:須藤隆一、27歳。四年勤めた防犯企業を辞めた所で、父親の失踪を知った。後妻である母の能天気さに憤りながらも、失業手当と日雇い労働で家に生活費を入れる日々。ジャカルタからの労働者・サブローにトラックとショベルカーの使い方を教えた数日後、隆一は実の母に会い、父親の話を聞く。…
 …職業訓練所には私も通ったけど、こんな冷たい扱いは受けなかったな。訓練所も卒業生の就業成績評
 価されるみたいだし、可能性があればあるほどちゃんと教えてくれると思うんだけど、それは地域性の
 差か何かあるのかな。
 サブローの真相はナイス(笑)。

『四十二歳』:須藤薫、42歳。夫が失踪して以来、酒浸りの日々。半分ボケた義父から目を離す訳にも行かず、家で猫に餌をやる毎日。薫は夫・宗之と出会ったバブル時期を思い起こす。

『七十三歳』:須藤新造、73歳。若い頃を思い出す。養子に入った裕福な家でのこと、そこの病弱な一粒種の長男のこと、戦後家を放り出されて必死に生きてきたこと。
 そして家族はお弁当を持って、圭一の出る駅伝の応援へ出かける。
 …今時の73歳、こんな老人老人した喋り方しねぇよ、てのが第一印象。いや、普段からこの世代と話す
 ことが多かったもので(笑)。あんなに大事にしている息子の後釜を、実の両親は考えるかなぁ??
 自分の身の丈って、宗之は確かに悟るのが遅かったけど、孫はまだ足掻いていいよ。自分のが判ったの
 だって、とんでもない失敗を重ねたせいじゃないか。

 あちこちでこの作品の記事を見かけた上でですよ、図書館の返却棚にこの本が並んでるのを見つけたら、これはもう神様が「読め」って言ってるんだ、と思いません?(笑)
 と言う訳で手に取りました。
 …う~ん、どうしたものやら。
 子供の章はよかったんです。それでも、合間合間で語られるお父さん、お母さんの無責任さに眉を顰めましたが。後々語られるエピソードで、一応それぞれ見方が優しくはなったんですが、やっぱり、お父さん家族をほっぽり出すなよ、例え血が繋がらなくても一度背負ったものだろう、お母さんも何を甘えた考えしてるんだかという気持ちは消えない。仕方ないねぇ、って笑って許せるレベルにならない。多分これは私にもある厭なところで、裏返して自分を見てるんでしょうね。
 カナの友達にしたって、本人感動してたから余計なお世話だけど、そのピントのずれ方は何だかなぁって感じしたし。隆一も、この先結婚したい相手が出来たらどうするんだろう、とか妙なことを考えてしまいました。
 例えば。あのお父さんを、伊坂幸太郎氏が書けば、もっと魅力的な人物になったはず。
 圭一にだけは、「よぉし、行けよぉ」と声援を贈ってしまうけれど。