読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

ストロボ 真保裕一著 新潮社 2000年

 ある写真家の半生を描いた連作短編集。

 写真家・喜多川光司(本名北川浩二)50歳。自分のスタジオを構え日々の仕事をこなす喜多川に、52歳の女性・豊島泰子から依頼が来る。依頼者の娘に案内されて訪れたのは病院。彼女は彼に遺影を頼んだのだった。20数年前、一度だけ喜多川に写真を撮って貰った事がある、と幸せそうに話す泰子。しかし喜多川は思い出せない。喜多川は最期の時まで泰子を撮り続け、小手先だけの写真を撮るようになっていた自分を見つめ直す。:『遺影』
 喜多川42歳。以前自分の助手をしていた女性カメラマン・柊ハルミが、ヒマラヤ登山隊と消息を絶った。当時珍しい女性カメラマンであった為に正当な評価がされず、過酷な写真を撮り続けたハルミ。遭難は登山に不慣れな彼女のせいではないかと騒がれ初めていた。昔彼女とつきあっていたTV制作部の仁科に引っ張られるように、喜多川はハルミの遺品、フィルムを現像する。彼女の無実を証明し、せめて写真集を出してやるために。:『暗室』
 喜多川37歳。精力的に働く喜多川に、かつて師事した写真家・黒部勝人が近づいて来る。業界ではもう過去の人と扱われている黒部。昔自分が黒部に投げかけていた軽蔑の視線を、今自分がアシスタントから向けられている、と感じる喜多川に、自分の浮気現場の写真が、見事な技術で送られて来る。師匠と仰いだ人物と今の自分とが二重写しに浮かび上がる。:『ストロボ』
 喜多川31歳。その四年前まで、喜多川は契約カメラマンとして大手出版社で働いていた。週刊誌の契約ライター・桜井美佐子に自分の欠点を指摘され、見くびっていた先輩カメラマンに見事な写真を撮られて焦る喜多川。田舎に戻って見舞った母親の入院先で、難病に苦しむ少女・千鶴に出会い、彼女をモデルにして改心の一枚を撮る。しかし、その写真が美佐子との破局を産む。四年後、千鶴の死を聞いて当時のことを思い出す。:『一瞬』
 北川22歳。学園闘争でろくに授業のない大学に見切りを付け、スタジオでのアルバイトに精を出す北川。その北川の元に、同級生葛原のカメラ・ローライフレックスが送られて来る。葛原は自動車事故で死亡していた。四回生になってから就職活動もせず、らしくない学園闘争にのめり込んでいた葛原。北川は葛原の恋人・真希と共に葛原の故郷を訪れ、彼の撮った写真を見、その真意を知る。:『卒業写真』…

 一人のカメラマンの半生を逆さまに描く、と言う発想で勝利ですね。ちらっと出てきたエピソードが後で詳しく説明されるのが何だか嬉しい。奥さんとの出会いも知りたかったなあ。すらすらと読めた作品でした。