読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

沼地のある森を抜けて 梨木香歩著 新潮社 2005年

 叔母の時子が死んだ。久美は叔母のマンションと共に、先祖伝来の「ぬか床」を受け継ぐ。朝晩欠かさず掻き混ぜているうちに、ぬか床は卵を産む。しばらくして卵は孵り、10歳くらいの半透明の少年が現れた。幼なじみのフリオはそれを、小さい時に交通事故で死んだ親友だと言い張り、自分の家に連れて行く。続いて現れたのは「カッサンドラ」と名乗るのっぺらぼうの女。久美の気に障る行動や言動を繰り返す。いらいらした久美が怒りにまかせて芥子粉をぬか床に混ぜると、悲鳴と共に消えてしまう。不可思議な出来事の真相を知りたくて、久美は時子叔母と交流のあった酵母研究者・風野と連絡を取り、また、叔母が生前つけていた日記を読んで、ぬか床発祥の地であり、自分達のルーツでもある「島」へと向かう。…

 これは梨木さん流恋愛小説かも。
 梨木さんの作品は一貫して、根底に「祖母、母、娘」への想いが流れている気がします。それがプラスの方向であれ、マイナスの方向であれ。マイナス感情を描いた「裏庭」なんて、「よくぞ児童書でこれをやった!」と驚きました。あの本、児童書であることが一番の重要事項だと思います。小学校5.6年生で、親と反りが合わなくて、それが自分の所為ではないかと悩んでる子が読んだら、きっとものすごく力づけられる。「からくりからくさ」で“想い”を託す人形だの織物だの、間に“もの”が入るようになったな、と思ってたら「家守奇譚」なんかで重心が“もの”に移り、代わりに物語に軽みが出てきて、で、今回です。
 今回受け継がれる物は「ぬか床」。初めのうちはほんのりユーモラス。「一瞬湧き上がった怒りを馴れた手順で諦めに変え」なんて表現、「わかる、わかる」とか思っちゃう(苦笑)。友人の話として出てくる、「デートの途中彼の実家に寄ったら、自分の分だけおかずが出てこなかった」エピソードなんて、多分誰かの実話なんだろうなぁ。叔母の日記読んで、叔母の過去の恋人に突っ込み入れる姿なんか本当に面白い。ただ、現実世界はすらすら読めるのに、架空世界(?)を描いた「かつて風に靡く白銀の草原があったシマの話」の章になると、いきなり読書速度が落ちる。漠然とは何を指しているのか解るんだけど、本当にそうなのか、決定打が無くて少し辛い; 
 連綿と受け継がれて行く物はやはりある。最後でそのものずばり、「母→子」に行くのは、梨木さんらしい気がして仕方ありません。