読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

アイオーン 高野史緒著 ハヤカワSFシリーズJコレクション 2002年

 13世紀西欧から中央アジアを舞台にした、歴史改変小説。連作短編集。
 『エクス・オペレ・オペラート』:フランス、トゥールーズにて。古代ローマの核戦争で放射能汚染の残る西欧。科学技術の衰えから物質に頼る事が蔑まれ、精神的に功徳を積む事が良いこととされる信仰が巾を効かせていた。若き医師ファビアンは、物質で人体を助ける自分の行為と信仰との矛盾、それを指摘する放浪の科学者アルフォンス、科学の研究を続けることが信仰に寄与する事と考えて火刑に処される数学者にして天文学者ベレンガリウスらと触れ、真実を追究する旅に出る。
 『慈悲深く慈悲あまねきアッラーの御名において』:砂漠の都パルミラにて。伝説の都パルミラには過去を取り戻す機械があると聞き、アルフォンスはパルミラを探し出す。そこは2.3人の男の客人以外は全て女の国。アルフォンスは女達から謎を聞き出そうとするが、そのうち自分の記憶自体があやふやになっていることに気付く。
 『栄光はことごとく乙女シオンを去り』:コンスタンティノポリスにて。ファビアンは教皇使節の一員としてこの地に来ていた。衰退しかけているこの土地で、ファビアンはマルコ・ポーロと出会い、東洋の情報を得ると同時に、この地の見かけではない真実を見る。
 『太古の王、過去の王にして未来の王』:ログレス(イングランド)にて。パルミラ国は東方からの謎の軍勢に滅ぼされ、ようやく逃れてきたアルフォンスの娘らはそれぞれアーサー、モルガンと名付けられて健やかの育つ。やがてアーサーはログレスの王となり、この地を襲う赤黒い巨人と戦って勝利しながらも王妃グウィネヴィアに愁い、自分の分身に倒される。
 『S.P.Q.R.』:ローマにて。ファビアンはコンスタンティノポリスから教皇に会うためローマへ向かう。地震でローマの<大天使の塔>が中の機械をばらまいて倒れ、物質を悪とする信仰が崩れ始める。匿名聖職者の裏の顔、自分へ向けられる悪意や誹謗中傷の中、ファビアンはマルコに再会、モルガンの元へ行く決意をする。
 『トランペットが美しく鳴り響くところ』:中央アジアにて。古代、戦闘の為に作った人工の巨人が自然発生し、人々を襲っていた。巨人を感じ取れる能力を持つ少年ファルはアーサーと出会い、よりその能力に磨きがかかる。ファルはアルフォンスと話す事で自分が何者かを知り、巨人と共に眠る。
 『エピローグ』で、老いて教皇になったファビアンが描かれる。…
 第一話、「魂は叫ぶ。嘆きの言葉はこうだ、『もう終わりにしてください!』」の下りで、ピン芸人井上マーを思い出してしまいました。…いや、すみません(笑)。
 私に中世ヨーロッパの宗教知識があれば楽しめたんだろうなぁ、と言う作品。佐藤亜紀さんの作品にも言えるんですが、この作家さん達、自分が興味ある物の説明をあまりしない。「これはこんなに面白いんだよ」と他人に懇切丁寧に解説して、広めようと言う意識がない感じがします。それともこの程度の知識は一般教養なのかなぁ? まるで当たり前のように、その上に積み立てた作品を提示する。私が中高生なら頑張ってその手の見聞を広めようと努力するかもしれないんだけど、今さらそれはきついので、この作品だけで楽しめるようにして貰えると有り難いです; ただ、後書きによると、今回はわざとそう言う風にしたみたいではあるんですが。
 元々西洋芸術や中世宗教などの知識がある人には、とても面白い作品なんだろう、っていう事はありありと感じ取れます。それこそコアなファンがつく作家さんなんだろうなぁ。そんな気がとてもします。