ネタばれあります、すみません;
〈月影ノ乙女〉は、〈月の獣(けもの)〉を身の内に住まわせている。それはことあるごとに、人は独(ひと)りで生まれて独りで生き、独りで死んでいくのだと囁(ささや)くのだ……。
精霊(イリ―ア)の恵み深き国ハスティア。ジルは幼い頃から卓越した魔法の力を発揮し、国に仕える魔法師(フォーリ)となった。だが、平和で豊かな国ハスティアを虎視眈々と狙う者がいた。竜に変じる王を戴くドリドラヴの侵略を受け、戦火に踏みにじられるハスティアの町々。掟によって魔法での攻撃を禁じられているフォーリたちは苦悩を深める。魔法で戦えば自分達の力は失われ、それだけならまだしもイーリアたちも滅んでしまうというのだ。それでも、無辜(むこ)の民の命が奪われ、仲間たちが倒れ、父親が自分を庇って目の前で焼死し、ジルは魔力を攻撃に使ってしまう。敵国の狂暴な王子三人を海の底に沈め、父竜王を追い払った。だが、竜王は自分の力の源である月に至り、張り付いて回復を待つ。その姿は影となって地上からも伺えた。
大きな魔力を失ったジルたち。やはり力を失った仲間と、穏やかに過ごす日々。だが、10年以上の月日の後、三王子の怨念が形を成し短剣となり、ジルを襲った。何とか短剣を封じるジル。都の幻視能力者は、まだ生き残っている巨大イリ―アの異変と、力を取り戻した竜王の再襲来を予見する。ジルは能力を発揮しはじめた甥っ子リッチェンと共に、都に向かう。厳重に包んだ短剣を背に、だが短剣は隙あらばジルを狙い、やがてそれを持ったジルの内面は、三王子に侵入される。天からは竜王が舞い戻って来ようとしているのに。…
(表紙折り返しの紹介文に付け足しました)
表紙を開いてちょっと息をのみました、本文519頁、二段組の大長編。…期間内に読めるかしら??と怯えつつ、何とかぎりぎりで読めました。
何しろこの世界観、設定を説明するのにページがかなり割かれてる。第一部が全体の5分の3ですからね、本格的に物語が動き出すのはそれ以降。この物語の中の独特の言葉、固有名詞がばりばり出てきて、これはこの作者の特徴なんですが、でも最初はやっぱり戸惑いました。地名か服装の名か人名か、人名なら男女どっちかもわからない;
宗主国アトリア王国とドリドラヴ大王国の関係、イリ―アの存在の大切さ。ジルのデキるが故の慢心とかは、もしかしたら作者の狙いほどは響いて来ないかもだけど。同期の仲間たちから色々指摘されはしてますが。
個人的に気になったのはアトリア王国から嫁入りして来たマナランの行く末です。名君のよい伴侶に化けそうな描かれ方でしたが、でも彼女の想いは王の側近ヴィスマンへ向いたままの筈で、ずっとこのままうまく行くんだろうか??と余計な気を回してしまいました。
三王子の怨念との対峙の描写、竜王との闘いはやっぱり凄いなと思いつつ、ちょっと『ONE PIECE』の一場面を連想したり。
魔力を 人を傷つけることに使ってはならない、という掟は何かを暗示しているよう。一度振るってしまうと、大切な何かを失う。物語の結末は、現実世界ではこうは上手く行かないだろうけど、でも理不尽な暴力に、こうあってくれたらいいのに、と願うばかりでした。