読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

spring スプリング 恩田陸著 筑摩書房 2024年

「俺は世界を戦慄せしめているか?」
自らの名に無数の季節を抱く無二の舞踊家にして振付家の萬春(よろず・はる)。
少年は八歳でバレエに出会い、十五歳で海を渡った。
同時代に巡り合う、踊る者 作る者 見る者 奏でる者――
それぞれの情熱がぶつかりあい、交錯する中で彼の肖像が浮かび上がっていく。
彼は求める。舞台の神を。憎しみと錯覚するほどに。
一人の天才をめぐる傑作長編小説。 (出版社紹介文より)

 恩田さんのバレエ小説。わくわくして読みました。
 面白かったです。
 私のバレエに関する知識ってったらそれこそ『スワン』とか『舞姫テレプシコーラ)』とかの漫画からのしかないんですけど(あ、ローザンヌ大会のTVは毎年見てるか)、で音楽知識ってったらそれ以上にないんですけど、でも面白かったです。
 春のクラスメイト(?)の証言から始まって、春の叔父が綴る生い立ちや小さい頃のエピソード、そこに出てきた幼馴染の少女が長じて作曲家になり春と共に舞台を作り、最後に春自身の言葉で、その時々の思いを語る。作中の題材になった小説や寓話が結構なじみのあるもので、ああ、見てみたいなと思ったし(「紅天女」ってワードはもう一般教養なのね、「漫画『ガラスの仮面』の劇中劇です」みたいな注釈がなくても成立するのね・笑)、音楽は「どういうのだ??」って検索しようかと思いましたよ、結局やってないんですが。どなたかYouTubeか何かにまとめてアップしてくれないかしら(←こらこら;)。
 ただ、幼い春が見せた「一回転」が、宙返りなのかひねりなのか分からなくて、ちょっと首を傾げました。…体操クラブで習うなら宙返りだよね、だけどそれ見てバレエ学校の先生が動くかな。
 実際はもしかしたら、嫉妬だの何だのが渦巻いた、虐めや蹴落としあいがあるような世界なのかもしれない。でもこの作品では出てきた人がみんないい人で、才能を認め合い、尊敬してお互い高めあっていく。最後にちょっとだけ、春が学校に馴染めなかった、という負の感情が出てきますが、それも作品に昇華させる。どんな感情も状況も、後々作品の糧となるよう、俯瞰で見る癖がついてるのかな。それが心地いい。
 初版特典の特別掌編が読めなかったのが少し残念。順番が回ってきたのが閲覧期間後だったし、そもそも私スマホ持ってないし(苦笑;)。文庫化とかされた時に収録されてますように。
 ページの端っこに印刷されたパラパラ漫画も楽しかったです。電子版ではどうなってるんだろう。舞台の奥行まで表現されてますよね。…って人物像が大きいか小さいかの差だけなんですけど、これ大きいですよね。
 そうそう、柴犬にイナリってネーミング、いいなぁ(笑)。本当、恩田さんのタイトルセンス、好きです。