この日、あたしは 新井素子
母の死をきっかけに「あたし」が見つけた枕型幼児対応AI。そうだ、あたしはこれをモフちゃんと呼んで離れるのを嫌がって、だからママが捨てずに残してくれてたんだ。でも今、これを以前の通り蘇らせるには…。
ぼくの好きな貌 皆川ゆか
一卵性双生児の妹は、売れない地下アイドルで毎日を満喫している様子。真面目な「私」とは反りが合わない。ある日、妹は顔に大怪我を負い、そのまま自殺してしまう。彼女には、細胞に残る記憶を再生させる研究をしているファンがいた。妹の人面瘡が「私」に生えてくる。
わたしと「わたし」 ひかわ玲子
この星では、みんな双子で生まれてくる。十歳の誕生日に儀式を受けて、全き一人の人間になる。だが、「わたし」は一人で生まれた。そのまま一人で生きていく選択肢を示されながらも、わたしは儀式を受ける生き方を選ぶ。大人になる繭の中で、わたしはもう一人の「わたし」の存在を感じた。
ロストグリーン 若木未生
編曲家イングラムは、作曲家シュウルの楽曲に惚れ込んでいる。ありとあらゆる音源から、無限の組み合わせを彩るシュウル。ある日、二人の目の前にエヌと名乗る人物が現れた。彼はシュウルに鎮魂歌を依頼する。報酬として、と歌を歌い始めた。
守護するもの 津守時生
惑星ウバロバイトでの内乱に巻き込まれ、ジャックは両親と姉を喪った。やはり瀕死の状態に陥ったラフェール人シヴェルは、ジャックを救うため禁忌の能力に目覚める。望むすべての生き物に死を与える精神感応能力。それを調整できるのは、シヴェルが保護を願ったジャックのみとなった。
あなたのお家はどこ? 榎木洋子
開発初期の惑星に住む少女ジェニは、遠くの少年少女とVR授業を受けている。やがてこの惑星に来る移民船に乗った子供たちの模擬AIと、好感度を最大限に上げて。いずれ対面で困ることになる、と母親に忠告され、喧嘩したジェニは、行く先告知の上で家出することに。名前も決まっていない開発途中の惑星では、それが当たり前だったので。
一つ星 雪乃紗衣
氷の上でたった一人、狩をしながら生きる少女。彷徨う中、やはり一人きりで生きる少年と出会う。ろくに食べ物も見つからない中、いつしか共同生活を始める二人。彼らには金属製の首輪や腕輪がはめられていて…。
とりかえばやのかぐや姫 紅玉いづき
竹林の中より、美しい男が生まれたという。興味を持った少女帝は、その竹取りの尊に会い、彼を伴侶にしたいと願う。やがて訪れる月の使者、尊を迎えに来る者達に弓を弾いてでも。
或る恋人達の話 辻村七子
十七世紀のフランス、革命後。全身機械化が当たり前の世界で、ジャンとブリュノの二人は、くるくると変わる政権と、その度に代わる法律に振り回され、性別の変更を繰り返す。配偶者として共にあるために。
コラム 少女小説とSFの交差 嵯峨景子
少女小説とその中でのSFの関連、果たした役割を語る。
図書館で検索かけたら新刊の欄でこの書名を見つけまして、これは読まねば!と予約を入れた本。いやぁ、凄いラインナップだよ。
各レーベルから代表者を、ということみたいなんですが、適確だと思いまいした(←上からでごめんなさい;)。作品を読んでなくても名前は知ってる、って作家さんばかり。
新井素子さんの作品は何だか『ドラえもん』の都市伝説を思い出しました。若木未生さんの文章、久しぶりに読んで懐かしかった~。そうそう、こういう「ついて来られる奴だけついてこーい!!」みたいな、ヒキの強い語り口なのよね(笑)。
ひかわさんの作品は『ぶ~け』や『花とゆめ』に載ってた読み切りの少女漫画のよう、幻想的なふんわりした絵柄まで見えてくる。榎木さんは翻訳物の海外SFの雰囲気、皆川さんはどんでん返しのホラーテイスト、紅玉さんは相変わらずエモーショナル。雪乃さんの作品も盛り上げ上手、ちょっとオチの察しがついてしまいましたけど。
津守さんの饒舌さも懐かしかった。『三千世界の鴉を殺し』は途中まで読んでたんですよね~。新刊に追いついた所でどこまで読んだか分からなくなって(←すみません;)。辻村さんはIF世界にパートナーシップを絡めて。
どの作品も自分の居場所、認め合える誰かを描く物語になっているのが興味深かったです。少女小説とSFの親和って、そういうものを書き易くするのかな。
栞紐が銀文字が入った青いリボンで、嬉しい装丁でした。