読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

フィールダー 古谷田奈月著 集英社 2022年

 ネタばれになってるかもしれません、すみません;

迎え撃て。この大いなる混沌を、狂おしい矛盾を。
「推し」大礼賛時代に、誰かを「愛でる」行為の本質を鮮烈に暴く、令和最高密度のカオティック・ノベル!

総合出版社・立象社で社会派オピニオン小冊子を編集する橘泰介は、担当の著者・黒岩文子について、同期の週刊誌記者から不穏な報せを受ける。児童福祉の専門家でメディアへの露出も多い黒岩が、ある女児を「触った」らしいとの情報を追っているというのだ。時を同じくして橘宛てに届いたのは、黒岩本人からの長文メール。そこには、自身が疑惑を持たれるまでの経緯がつまびらかに記されていた。消息不明となった黒岩の捜索に奔走する橘を唯一癒すのが、四人一組で敵のモンスターを倒すスマホゲーム・『リンドグランド』。その仮想空間には、橘がオンライン上でしか接触したことのない、ある「かけがえのない存在」がいて……。

児童虐待小児性愛ルッキズム、ソシャゲ中毒、ネット炎上、希死念慮、社内派閥抗争、猫を愛するということ……現代を揺さぶる事象が驚異の緻密さで絡まり合い、あらゆる「不都合」の芯をひりりと撫でる、圧巻の「完全小説」!  (帯文より)

 近年、古谷田さんの作品を読んで思うのは、つくづくデビュー作での古谷田さんを私は読み違えていたんだな、ということ。私にはあのデビュー作は、悪く言うと恩田さんの亜流に見えたんですが、自分の書きたいことを精一杯エンタテインメントに寄せた形だったんだろう、と今となっては思う。古谷田さん、自分の文章というか作風を確立したもんなぁ。
 何とも凄まじい作品。よくもまぁ、ここまで色々詰め込んだとも。
 登場人物が全て危うい。読んでるこちらも不穏になって心がざらつく。
 何故か私の中で、登場人物の性別が最初の段階ではっきりしませんでした。読み取り不足以外のなにものでもないんですが、黒岩さんでさえ、「あれ、女性、だよね?」と揺らいでしまった。最初に「彼女」って出てるのに、夫の宮田とのやりとりを読んでる最中にも、男性カップルだったっけ? あれ??と疑惑がよぎる。これは黒岩さんに掛けられていた疑惑の性質と、あと、推理小説の作法を思い浮かべてしまったからなのかもしれませんが(苦笑;)。
 ソシャゲの中でしか知り合っていない人物がどういう年齢でどういう境遇にいるのか、それが分からないのは当たり前で、分かってからより不安は募る。いい方向に向きだしても「いや、ここで終わる筈がない」「またきっと奈落に突き落とされる」とはらはらしながら読み進みました。久しぶり、先が知りたくてついつい後半のページを覗き見してしまいましたよ。やってもいいことないのにねぇ。
 自分のその後を変えたような、心を震わせる名作を書いた作家に痴漢行為をされて、自分が憧れ、尊敬していた人物がそんなことをする人だったという事実に打ちのめされた女性編集者の話は考えさせられました。監督とか俳優とかに何か問題があった場合、作品は作品で当該人物の人徳とは切り離すべきだという話はよく聞くし、私もどちらかと言うとそちら寄りの意見だったのですが、その見解が大きく揺さぶられました。
 橘は結局、黒岩を救わず<隊長>礼を選んだということなんでしょうか。でも人を食べたクマは処分対象になる筈、黒岩さんクマのことを思うならその死に方はよくないわ。
 猫を飼ってる人、心が痛くなるんじゃないかしら。あえて目を瞑ってることだろうから。