読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

レジェンドアニメ! 辻村深月著 マガジンハウス 2022年

 『ハケンアニメ!』スピンオフ。

 九年前のクリスマス
 27歳の有科香屋子は、制作進行を担当していたアニメが“空気アニメ”と呼ばれていることを知って、落ち込みながらも『光のヨスガ』を見ていた。
 高校一年生の斎藤瞳は、サンタクロースワンピを着てクリスマスケーキを売っていた。
 高校二年生の並澤和奈は、隣席の田口くんがクリスマスパーティーに呼ばれたことを知って、泣きそうになっていた。田口くんは、和奈の描いた教科書の落書きを、手放しで褒めてくれていた。

 声と音の冒険
 『運命戦線リデルライト』の最終話の絵コンテを見て、音響監督の五條正臣は監督の王子千晴との出会いを思い出していた。シリーズもののアニメで斬新な演出を狙い、上から怒られていた彼。今、王子は自分の名前を出した作品で、新しい効果に挑む。

 夜の底の太陽
 母さんと二人だけで引っ越して来た団地、同じ小学校の生徒のいない遠い塾に、冨田太陽は通っている。母の方針で漫画もアニメも見ていないから、友達がそんな話題で盛り上がっていても話に入れない。でも、順太も爽平も、拾った猫の貰い先を一緒に探してくれた。そんな二人とケンカした後、猫を引き取ってくれたお姉さんが、アニメ『サウンドバック』を勧めてくれた。

 執事とかぐや姫
 逢里哲哉は25歳、フィギュア会社の広報を担当している。フィギュアの祭典「ドール・ソニック」で自分のミスに落ち込んでいたのに、憧れの原型師に会えていきなり浮き上がった。鞠野カエデ、実際に会うと女性で美人で、二度目に会った時には子連れだった。でも逢里は気にならない。彼女が天才的な原型師で、いつか一緒に仕事がしたいということの他は。

 ハケンじゃないアニメ
 和山和人は長寿アニメ『お江戸のニイ太』のプロデューサー。今年で30周年を迎えるその記念の新OPを、斎藤瞳監督に依頼できるとあって興奮気味。ただ斎藤は、この有名アニメを通ってこなかったと言う。よぎる一抹の不安、その上『ニイ太』立ち上げから関わって来たベテランプロデューサー七神昇平も退職すると言って来た。七神は長年、『ニイ太』の原作者 左近寺誠とのパイプ役を務めているのに。

 次の現場へ
 人気声優 美末杏樹とアニメーター迫水孝昭の結婚式にて。散々ぼやく王子千晴、それを宥める有科香屋子、制作からアニメーターへ転身した川島加菜美も出席していた。王子の次の仕事はチヨダ・コーキ原作の『V.T.R』、脚本に赤羽環を迎えて丁々発止の会議を重ねている。作画監督は並澤和奈、斎藤瞳は別の劇場版作品に呼ばれている中、川島加菜美は自分に声が掛からないことを気に病んでいた。…

 映画になった『ハケンアニメ!』、きっとそれにあわせて刊行された短編集。映画はぐずぐずしている間に見損ねました。(←おい)
 出てきましたねぇ、チヨダ・コーキに赤羽環! 世界線同じ話だったのね、ふふふ、そうでしょうとも。
 さすが辻村さん、着眼点がオタクならでは(笑)。音響監督やフィギュアメーカーなんて所に話を持って行くとは(何故か上から目線)。
 『ハケンじゃないアニメ』、これはどれかモデルがある作品というより、色々なアニメの集合体でしたね。『忍たま乱太郎』と『アンパンマン』の混合だろうか、『ドラえもん』や『クレヨンしんちゃん』は入ってない気がするけど、と思ってたら最後の謝辞に諏訪道彦さんのお名前。…そう、読売TVのアニメは長寿を狙うんですよね、『ルパン三世』から『コナン』まで。子供は勿論、大人まで楽しめるもの、再放送まで視野に入れて、ですものね。
 相変わらず熱い人たち、みんな誠実に仕事に向き合い、それが評価されて行く。いい加減で済ますことができない、そりゃ時間やら何やら制約はあるけど、その中でベストを尽くす。やっぱり読んでて気持ちのいい作品でした。
 それにしても、『サウンドバック』、本当にアニメにならないかなぁ。