読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

さよならに反する現象 乙一著 角川書店 2022年

 短編集。
 ネタばれになってるかも、すみません;

 そしてクマになる
 リストラされてしまったが、妻と子に何も言えず、クマのぬいぐるみに入るバイトをしている。住宅展示場で風船を配っていると、妻と子によく似た親子連れを見かけた。二人は見知らぬ男と親し気に歩いている。自分の妻は不倫をしているのだろうか。

 なごみ探偵おそ松さん・リターンズ
 冬のある日、イヤミの屋敷で、庭師のカラ松が剪定鋏で刺殺された。現場は使用人の休憩室で密室状態、部屋の鍵は鍵束ごと消えている。やがて、池の底から鍵束が見つかった。池には夜中に氷が張った筈、なのにカラ松は朝7時の時点で目撃されている。犯人はどうやって部屋の鍵をかけたのか。

 家政婦
 神宮司家は近隣の町の死者の通り道になっているらしい。住み込みの家政婦として雇われた山田秋穂は、ある日一人の少女の幽霊を見る。彼女は約一年前、行方不明になったとマスコミに騒がれた人物だった。遠い場所で行方不明になった少女が、何故今この町で亡くなっているのか。秋穂には心当たりの人物がいた。

 フィルム
 星野源の曲『フィルム』にインスパイアされた作品。
 幼なじみの少女に、未来が映ったフィルムを見せられる。一年後、五年後、十年後…。彼女は言う。自分をおいていくことに、負い目を感じないで。…

 悠川さんは写りたい
 作成した心霊写真を投稿することを趣味にしている「僕」烏丸。著作権のことも考えて、ネタは家族の古いアルバムと新しい写真を合成している。三月のある日、僕は交差点で女の子の幽霊と出会った。悠川と名乗った彼女は女子大生で、交通事故で死んだらしい。恋人に二又を掛けられていたことを心残りにしていた悠川は、彼を懲らしめてやりたいと心霊写真の作成を烏丸に依頼する。烏丸はわざわざサークルの合同花見大会に参加することに。…

 乙さんてば、いつの間にこんな、物哀しくも優しい、希望の差し込むようなお話を書くようになったんだろう。
 『家政婦』は今までの乙さんらしい話かな、『そしてクマになる』のスプラッタテイストも。それにしても底にずっとユーモラスな明るい雰囲気が流れてる感じ、それは『悠川さんは~』もそうでしたね。
 おそ松さんは、これはいわゆる二次創作になるのかしら、でもこれ凄くよくできてるんですけど。各キャラクターもいかにも上手く描けてて、最後にイヤミが全て被らされるところまで、本当に「らしい」。本編で見てみたいな、次のクールででも制作してくれないかしら。
 『フィルム』での「あなたの言葉はいつか孤独な人に届くでしょう」「死の淵をさまよいながらも生きることを選んだあなたは、生きていることの喜びを表現し、人生の意味を語る資格があるのかもしれません」なんて言葉は、どうしても星野源さん自身を連想してしまいました。星野さん、嬉しいだろうなぁ。
 何か、大人の乙さんを見た気がしました。