読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

少年と犬 馳星周著 文藝春秋 2020年

 1匹の迷い犬とそれにまつわる人々との交流を描いた連作短編集。第163回直木賞受賞作。
 ネタばれあります、すみません;

 男と犬
 大震災から半年、男は仙台で犬を拾った。認知症の母を抱え 金を必要としていた男は、外国人窃盗団の逃走を手伝うようになる。母が犬を可愛がったこともあって、いつしか犬を守護神のように思う男。だが最後と決めた仕事で、何者かに待ち伏せされる。

 泥棒と犬
 泥棒は犬を連れて逃げ出した。幼い頃、本国で自分を助けてくれた犬が重なり、泥棒は犬と本国へ帰ろうとする。船に乗ろうと新潟へ向かう途中、泥棒はヒッチハイクでイラン人のトラック運転手と出会った。

 夫婦と犬
 富山の山あいで、男はやせ細った犬と出会った。男は犬を飼うことを勝手に決め、妻にその世話を押し付ける。いつまでも野外スポーツに明け暮れて生活を顧みない夫を、一人で支えることに疲れ果て、愛想を尽かしている妻。ひと時、犬は二人の安らぎになる。

 娼婦と犬
 滋賀の山中で、女は傷ついた犬を拾った。猪にやられたらしい傷が治る間、また続けて罹患した急性腎不全がよくなるまでの間、面倒を見る女。女は、行方不明の恋人の借金を請求されていた。

 老人と犬
 島根の山村で、猟師の老人は自宅の庭に迷い込んで来た犬と出会った。猟犬を亡くしたばかりだった老人は、主人が見つかるまで、と犬を飼い始める。家庭を顧みることがなかった老人は、妻を亡くし、一人死病と向かい合っていた。犬のおかげで娘とのわだかまりも解けた矢先、老人に手負いの熊の駆除依頼がくる。

 少年と犬
 熊本の農村で、男は林道から飛び出して来た犬を拾った。連れ帰ると、犬は幼い息子に懐く。かつて一家は釜石に住んでいたが、息子が震災のショックで言葉を失い、熊本に移り住んでいた。犬に埋め込まれたマイクロチップから元の飼い主が判り、子供との関係も明らかになる。犬のおかげで快方に向かう子供。だが、熊本も地震に襲われる。…

 馳星周さんの本を読むのは初めてです。
 これはズルいわ、泣かす気満々じゃん。出会う人に安らぎを与えながらも、心に思う一人に忠誠を誓う犬。岩手から熊本まで、誰に飼われようと、5年間ただ一つの方向を見据え続ける。…とか言いながら私泣かなかったんですけどね。
 犬が目指していたものが飼い主ではなかった。…って段階でこんなことあるのかな、と思ってしまいました。作中では光少年と犬の多聞の絆を「一目惚れ」って言葉で表現していて、そうなんだろうな、と思うしかないんですが。亡くなってしまった真の飼い主のおばあさんの立場は…って、生きていたらそちらに寄り添ったんでしょうけど。そう考えると多聞の最期は、おばあさんにしたかったことを、今度こそ光少年にしたのかなとも思ったり。
 こんな賢い犬なかなかいねーよ、とどうしても思うのは、私の周りにいた犬たちが(田舎の祖母が飼ってた雑種なんですが)賢くなかったからだろうなぁ。勿論可愛かったけど(笑)。
 連想したのは小さい頃読んだ児童書『名犬ラッド』。あれも長い距離を旅して最後、飼い主と再会してましたっけ。
 それにしても、結構 人死にの多い内容だったんですね。粗筋書くまで気が付かなかったわ(苦笑;)。