読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

灰の劇場 恩田陸著 河出書房新社 2021年

「私は確かにその二人を知っていた。もっとも、私はその二人の顔も名前も知らない。」
始まりは、三面記事。これは、“事実に基づく物語"。

大学の同級生の二人の女性は一緒に住み、そして、一緒に飛び降りた――。
いま、「三面記事」から「物語」がはじまる。
きっかけは「私」が小説家としてデビューした頃に遡る。それは、ごくごく短い記事だった。
一緒に暮らしていた女性二人が橋から飛び降りて、自殺をしたというものである。
様々な「なぜ」が「私」の脳裏を駆け巡る。しかし当時、「私」は記事を切り取っておかなかった。そしてその記事は、「私」の中でずっと「棘」として刺さったままとなっていた。
ある日「私」は、担当編集者から一枚のプリントを渡される。「見つかりました」――彼が差し出してきたのは、1994年9月25日(朝刊)の新聞記事のコピー。ずっと記憶の中にだけあった記事……記号の二人。
次第に「私の日常」は、二人の女性の「人生」に侵食されていく。
新たなる恩田陸ワールド、開幕!      (出版社紹介文より)

 私小説、になるんだろうか。ちょっとジャンル違うなぁ。
 奥多摩で40代女性が二人一緒に飛び降り自殺した、その那辺を推察する。でも実地調査等する訳ではなく、ただただ想像の翼を広げるのみ。早々に結婚したものの「好きな相手ではなかった」と30代半ばで離婚、企業翻訳家を活計とするT、不動産業界でばりばり働き続けたM。止まり木のつもりで一緒に暮らし始めたが、居心地の良さもあってずるずるとその期間は引き延ばされる。Mに年下の恋人ができて、プロポーズされたとしても。そして、ある日一気に諦めが、絶望が二人を覆う。
 記事だけを見るなら、私はこの二人を「恋人なのでは…?」と思いました。多分誰もが一番に思い付くだろうこの発想が、恩田さんはなかなか浮かばなかったのだとか。それでは当たり前過ぎる、と無意識に避けたのだろう、とご自分で分析されてましたが、それはそれで作家の独創力凄い、と素直に驚きました。
 恩田さん自身も過ごされてきた時代性も加味して、二人の女性を作り上げて行く。合間には二人の女性が現れて、「自分たちを引っ張り出すな」と訴えかけてくる。確かに、この作品で興味を持って、改めてこの事件を調べ上げようとする人も出て来ないとは限らないものなぁ。
 気になったのは、実家で倒れている「お母さん」を見つける場面。これは、恩田さん自身の創造だろうか、経験だろうか。実経験ならば、そこまで赤裸々に書いたのか。「M」の方の経験では、と思いたかったのですが、「震災の後持ち歩いていた懐中電灯」と記述がある以上、恩田さんに起こったこととして書かれてるんでしょうね。作家魂に舌を巻きました。…ブレーカーは何故落ちてたんだろう。
 個人的に、デビューして間もない頃、『光の帝国』を書こうとしてらっしゃった頃の恩田さんを読めたのが妙に嬉しかったです。