読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

いつの空にも星が出ていた 佐藤多佳子著 講談社 2020年 

 物静かな高校の先生、予備校に通う女子高生、家業の電気店を継いだ若者、少年野球のピッチャー、洋食店のシェフ――
 一見つながりのない人たちを結んでいる、強くてまっすぐな気持ち!
 なにかを心から「好き」でいる、すべての人へ贈る爽快な感動!!
              (出版社HPより)

 レフトスタンド
 1984年、10月のある日。囲碁同好会の俺たちは、顧問の真田先生――サナコウに神宮球場に誘われた。普段おとなしいサナコウは、大洋ホエールズについて熱く語った。遠藤投手への賛辞を。

 パレード
 高校二年生の小野美咲は、一学年上の田沢宏太と知り合った。デートで横浜スタジアムに行って、ベイスターズのファンになった。翌1997年、ベイスターズは優勝を意識する快進撃、でも受験を控えた美咲は心に余裕がない。希望校に受からず、市役所で働きながらの再受験を考えて、時間も考え方もあわない宏太とは別れてしまった。でもずっと引っかかっている。庁舎は横スタの目の前、1998年ベイスターズは絶好調、なのに応援へ行けないまま。でも叔母さんに観戦を誘われて火が着いた。日本シリーズまで熱狂、まっしぐら。この喜びを分かち合いたいのは宏太しかいない。

 ストラックアウト
 2010年、町の電気屋の「俺」小南良太郎は、お得意さんの留守を預かっている。自宅では姪っ子達に独占されてTVもろくに見られない状況、楽しみは横浜ベイスターズの試合を好きなだけ見ること。そんなある日、この家の息子 保坂圭士が帰って来た。圭士は東京の広告代理店に勤めていた筈、同居を始めるうち、ストーカーじみた男の姿も見え隠れする。憎まれ口を叩きながら、圭士にもベイスターズへの拘りが垣間見られる。

 ダブルヘッダー
 2016年、津村光希は小学4年生。洋食屋の息子で、小学校の野球チームに参加している。横浜ベイスターズのファン、だけどおばあちゃんはいい顔しない。週一回コーチをしているお父さんも肩身が狭そう。CSまで出たベイスターズは、翌2017年もCSに、さらに日本シリーズまで進出した。甲子園、広島、そして福岡。福岡ドーム戦のチケットが光希宛に届く。光希は、お父さんのお父さん、じぶんの祖父に当たる人物の存在を知った。大洋の頃から応援団をやっていて、かっこよくて、でも家から逃げてしまった祖父のことを。…

 ああ、佐藤さんの文章好きだなぁ。これだけ「好き」という気持ちを、素直に伝えてくれる文章はあまり知らない。ベイスターズファンには堪らないでしょうね。1997年当時、とり・みきさんが描かれたベイスターズ優勝漫画を思い出しました(笑)。

 『カルトQ』とか『アメトーーク!』とかでもそうですね、「好きなもの」について語る人を見るのは好きです。微笑ましくて仕方ない。ただこれが度を過ぎて、お金を使い込んだとか迷惑をかけたとかになるとちょっと待てよ、になるんですが(苦笑;)。多分、その悔恨と再生を描いたのが『ダブルヘッダー』になるんでしょうね。「誰か、おじいさんのこと、怒ってあげる人がいるといいけど」。…光希君、本当にいい子だなぁ。おじいさん、これを受け止められる人でありますように。
 ロッテ 近鉄の10.19ダブルヘッダーについては私も覚えがあります。…というか、当時母がラジオを聞いていまして、私が学校から帰ってくるなり「大変なのよ」と何も知らない私に試合状況を報告してくれた、という。母は未だに有藤監督に腹を立てています。…近鉄、ロッテ、どちらのファンでもないのに(苦笑;)。「阪神の金本監督は、抗議や要求をしなかった」って一文は含みがある気がしましたねぇ(笑)。

 羽海野チカさんの作品もそうですが、佐藤さんも真面目な人、努力している人に優しい。一旦しくじってしまったとしても、こつこつ積み重ね、やり直しをしている人への視線が温かい。気持ちのいい作品でした。

 そうそう、一言だけ。サンテレビは兵庫のTV局なのですよ。お世話になってます(笑)。