読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

逆ソクラテス 伊坂幸太郎著 集英社 2020年

小学生を主人公にした短編集。

 逆ソクラテス
 「久留米先生の先入観を崩してやろうよ」――転校生の安斎の言葉から、その計画は始まった。久留米先生は同じクラスの草壁に対して、見下した態度を取ることが多い。言い出しっぺの安斎は、草壁にテストでいい点を取らせ、佐久間さんの危機を救ったと思わせ、講演に来たプロ野球選手に、草壁を褒めるよう依頼し、僕らに魔法の言葉を教える。「僕は、そうは、思いません」

 スロウではない
 僕はリレーの選手に選ばれてしまった。足が遅いのに。同じく選ばれてしまった村田花らと共に放課後練習する日々、村田さんの友達で転校生の高城さんも付き合ってくれている。高城さんはどうやら、前の学校でいじめられていたらしい。

 非オプティマ
 久保先生は何だかぼんやりした先生で、授業中に児童が次々と缶ペンケースを落としても、「気を付けて」としか言わない。恋人を交通事故で亡くしたとの噂を肯定した後、先生はその原因となった人物と出くわす。そして、先生は変わった。

 アンスポーツマンライク
 小学六年の最後のミニバスの試合、「僕」はチャレンジができなかった。
 5年後、あの頃の仲間と恩師のお見舞いに行った帰り、講演で刃物をふるおうとする男を見かけて、やはり僕は動けなかった。
 それからさらに6年。子供バスケチームのコーチをしている仲間の元に集まった折、先年の男が襲い掛かって来た。偶然一人倉庫に離れていた僕は、一歩を踏み出す決意をする。

 逆ワシントン
 クラスメイトが義理の親から虐待を受けているのではないか。…そう思った僕たちは、クレーンゲームでドローンを入手し、クラスメイトの二階の様子を窺おう、と決意する。…

 伊坂さんの短編集。面白かったです。
 伊坂さんには珍しく(でもないか)、どの作品も後味がいい。いじめを受けている子だけではなく、いじめをしている子への窘めや説得、教育方法なんかは、本当に納得しました。そう、暴力で言うことを聞かせられるのは、相手が自分より弱い場合だけなんだよなぁ。そんなことしてると評判というか、結局自分の価値が下がるんだよ。
 でも語り口は柔らかくてユーモラス。決して押し付けがましいものではなく、磯憲先生の「大人になってモテるのは足が速い男じゃないんだぞ」「金をもってるやつだ」には思わず吹き出しました。村田さんや高城さんをいじめていた渋谷さんの印象が薄かった、実はいつの時代もいるタイプ、ってのにはちょっと留飲が下がる思いもしましたし。
 リンクは磯憲先生と、ユーチューバーから転向したプロバスケット選手くらいしかわからなかったんですが、他にもあったのかな。いじめをした側、犯罪を犯した側のやり直し、救済が描かれてるのも新鮮でした。好きだなぁ、この作品。