読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

47歳、まだまだボウヤ 櫻井孝宏著 KADOKAWA 2021年

 デビュー25周年を迎えた声優が初めて綴った“肉声"
 『おそ松さん』(松野おそ松)、『鬼滅の刃』(冨岡義勇)、『呪術廻戦』(夏油傑)、FINAL FANTASY VII REMAKE』(クラウド・ストライフ)、など人気作に多数出演しながらも、SNSを一切やらず謎に包まれた47歳アナログ声優が綴った初エッセイ集!
 人生の後輩男性にぜひ読んでほしい、現役声優の「仕事論」が込められています。

 今やアニメファン以外からも注目を集める職業になりつつある「声優」。
 しかし今から26年前、そんな業界に足を踏み入れ、華々しいキャリアを歩んできたかに思える著者が見てきたものは、今や都市伝説にさえ思えるカラフルかつ厳しい世界。

 愛知県の米屋に生まれて声優を目指した自身のパーソナルヒストリーを切り取った本書を、ぜひご一読ください!      (出版社紹介文より)

 雑誌『ダ・ヴィンチ』等で連載されているエッセイをまとめたもの。『ダ・ヴィンチ』連載の分は雑誌で読んでいました。
 櫻井さん、文章うまいわ~。飄々と語りかけて来る口調、語彙が豊富でチョイスも独特、ユーモラス。軽妙洒脱、くすくす笑いながらするする読める。子供の頃の話、ご実家の話、飼っていた愛犬の話、バイト時代の話。ゲームの話、眼鏡の話、旅行の話、コレクションの話、信じるも信じないもあなた次第の話。それこそ多種多様。
 雑誌掲載時に読んで印象的だった藤原啓治さんへの追悼文は、改めて読んでも胸に迫るものがありました。以前別の雑誌に書かれていたエッセイの中にあったエピソードにも、こっそり藤原さんは登場されていたのですね。
 一貫してあるのは一歩引いた冷静さ、でもその視線はほのぼのと温かい。何だかそれが櫻井さんご自身への信用にも繋がってる気がします。そりゃ役の上では疑われたり、警戒されたり、信じてもらえなかったりするかもしれないけど(笑)。
 そうそう、ゲームのぼっち仕事で寝てしまったことがある、ってのは木村昴さんも仰ってましたっけ。もしかしてあるあるなんでしょうか、まぁゾーンに入ってた、ってことで(笑)。

少女を埋める 桜庭一樹著 文藝春秋 2022年

 2021年2月、7年ぶりに声を聞く母からの電話で父の危篤を知らされた小説家の「わたし」は、最期を看取るために、コロナ禍下の鳥取に帰省する。なぜ、わたしの家族は解体したのだろうか?――長年のわだかまりを抱えながら母を支えて父を弔う日々を通じて、わたしは母と父のあいだに確実にあった愛情に初めて気づく。しかし、故郷には長くは留まれない。そう、ここは「りこうに生まれてしまった」少女にとっては、複雑で難しい、因習的な不文律に縛られた土地だ。異端分子として、何度地中に埋められようとしても、理屈と正論を命綱になんとかして穴から這い上がり続けた少女は東京に逃れ、そこで小説家になったのだ――。

 「文學界」掲載時から話題を呼んだ自伝的小説「少女を埋める」と、発表後の激動の日々を描いた続篇「キメラ」、書き下ろし「夏の終わり」の3篇を収録。
 近しい人間の死を経験したことのあるすべての読者の心にそっと語りかけると同時に、「出ていけ、もしくは従え」と迫る理不尽な共同体に抗う「少女」たちに切実に寄り添う、希望の小説。      (出版社紹介文より)

 桜庭さんの、自伝的小説。ここまで書いて、エッセイや日記ではないのね~。
 意外でした。桜庭さんが直木賞受賞した折、お祖母様と一緒になって着物購入に走っていたお母様と、こんなに折り合いが悪かったとは。で、ここまで赤裸々に書いてしまうとは。
 精神の安定を保つ為にも、とりあえず書く、記録する(タクシーの運転手に半ばつきまとわれるくだりとか怖かったなぁ)、という作業が必要だったのかしら。自分の中で整理して、フィクションとして昇華するまでの中途作業を、読者は見ているのかも。
 で、問題は『キメラ』だよなあ。うちは朝日新聞を取っているので、この騒動を一応読んでいました。でも、桜庭さんの必死さは、この作品を読むまで気付かなかった。
 もやもやしましたね~。書かれてないことを粗筋として紹介されてしまったら、お母様の名誉は落ちてしまう、というのは分かる。では自分が書いたこと、娘に暴力をふるっていたとか、そこそこエキセントリックな性格であるということはいいのか? 規模が違うから? そんなに媒体が大きくないから? 小説を読む人は少ないから? …う~ん;
 まぁ、桜庭さんが抗議しているのは 評論での作品の扱い方についてなので 論点が違う話ではあるんですが、「母を護る」という動機については矛盾があるような気がしました。
 私の祖母もそこそこ思い込みの激しい人だったので、相手の言っていることに対しいきなり耳にシャッターが下りる、という現象には覚えがありました。母と二人、「大変な人だったよね~」としばし思い出話に浸ってしまいましたよ(苦笑;)。色々考えさせられました。

松島みのりさん

 ネットで訃報を知りました。

 何といっても『キャンディ・キャンディ』、キャンディス・ホワイト・アードレー。(←何故かフルネームで出てくる)
 今にして思うと凄い話だったよなぁ、「最初に出会ったのが運命の相手」が定石の少女漫画で(最終的にはそれを崩してないんですが)、順番に(と言っても二名か?)心を揺らす主人公。嫌味にならないのはあの一生懸命な可愛らしい演技があってこそ。
 あの当時、一人の人物を幼少期から大人になるまで演じられた、というのは珍しかったのでは。その技術を魅せて下さった気がします。

 お声を聴くだけで、お名前が分かる声優さんのお一人でした。「あ!」と嬉しくなりました。
 ご冥福をお祈り致します。

琥珀の夏 辻村深月著 文藝春秋 2021年

 大人になる途中で、私たちが取りこぼし、忘れてしまったものは、どうなるんだろう――。封じられた時間のなかに取り残されたあの子は、どこへ行ってしまったんだろう。

 かつてカルトと批判された〈ミライの学校〉の敷地から発見された子どもの白骨死体。弁護士の法子は、遺体が自分の知る少女のものではないかと胸騒ぎをおぼえる。小学生の頃に参加した〈ミライの学校〉の夏合宿。そこには自主性を育てるために親と離れて共同生活を送る子どもたちがいて、学校ではうまくやれない法子も、合宿では「ずっと友達」と言ってくれる少女ミカに出会えたのだった。もし、あの子が死んでいたのだとしたら……。
 遺体が「自分の孫ではないか」と相談しに来た老夫婦に依頼され、法子は〈ミライの学校〉の窓口の女性に会う。不愛想な彼女こそ「あの子」田中美夏だった。
 安堵すると共に、美夏の変わりように不審を抱く法子。結局遺体は別の少女で、親には北海道の施設に移った、と伝えられていたらしい。そして美夏も、彼女と行動を共にしていたことになっていた。美夏が何かを知っているのではないか、と被害者の母親は美夏を告訴する。法子は美夏の弁護を引き受けた。断る美夏に、法子は「話がしたい」と切り出した。
 30年前の記憶の扉が開き、幼い日の友情と罪があふれだす。   (出版社紹介文に付け足しました)

 相変わらず、子供社会の書き方が見事。法子の、頭のいいことがかえって揶揄の対象にになる、って辺りの描写には、さすが辻村さん、と舌を巻きました。
 読み始め、〈ミライの学校〉を自分の中でどう位置付けていいか迷いました。胡散臭い怪しい集団と思っていいのか、頭の中で警報ランプが鳴る感じ。でもやってることはサマーキャンプみたいなもんだよなぁ? 多分この時点で、作者の掌の上ですよね(笑)。
 回想の章と現在の章の二本立てで話が進みます。そのせいか、時系列をはっきり掴むのにちょっと時間がかかりまして、「泉の水に不純物が混ざってた」のがミカの流した水性絵具のせいなのか?とちょっと混乱したり。…これは私だけだろうなぁ(苦笑;)。
 子供だけの世界で起こった出来事。その教育方針がいい、と思った人も勿論いるだろうけど、子供を厄介払いのようにして預けた親もいるようで、それは何だかなぁと思いつつ。でも四六時中一緒にいたら、ストレスが溜まってしまう親もいて。ある程度離れていた方が愛情を素直に注げるタイプの人もいるし、という実証が、主人公法子を通じて描かれたのが身に沁みました。うん、読者も悪く思わないよね。とりあえず、「何かあった時」に咄嗟の行動を取れる大人は必要だったよなぁ、特にヒサノちゃんみたいな問題児がいたのなら。でもそのヒサノちゃんにしても、おませで自我が強かっただけな気はしますし。
 「カルト集団」と揶揄されるような場所でも、彼女たちにとっては大切な逃げ場所だった、受け入れて貰える、受け入れられる場所だった。美夏はそこの根本を否定されてしまった訳ですが、そこで知り合った法子には再び受け入れられた。せめてよかった、と思いました。世間の目がこれから苦しいかもしれないけど。

薔薇のなかの蛇 恩田陸著 講談社 2021年

 変貌する少女。呪われた館の謎。
 「理瀬」シリーズ、17年ぶりの最新長編!

 英国へ留学中のリセ・ミズノは、友人のアリスからソールズベリーにある「ブラックローズハウス」と呼ばれる薔薇をかたどった館のパーティに招かれる。そこには国家の経済や政治に大きな影響力を持つ貴族・レミントン一家が住んでいた。美貌の長兄・アーサーや、闊達な次兄・デイヴらアリスの家族と交流を深めるリセ。折しもその近くの環状列石では、首と胴体が切断された遺体が見つかり「祭壇殺人事件」と名付けられた謎めいた事件が起きていた。このパーティで屋敷の主、オズワルドが一族に伝わる秘宝「聖杯」を披露するのでは、とまことしやかに招待客が囁く中、悲劇が訪れる。屋敷の敷地内で、真っ二つに切られた人間の死体が見つかったのだ。さながら、あの凄惨な事件をなぞらえたかのごとく。オズワルド始めとする一族宛に送られた「聖なる魚」からの脅迫状、アーサーの叔父ロバートに毒が盛られ、犬と人間が爆発で吹っ飛び、そしてオズワルドは聖杯と共に姿を消した。
 事件の真相を、ヨハンが見抜く。…  (出版社紹介文に付け足しました)

 理瀬が、グレイの、タイトスカートのスーツ着てる…!
 いや、違和感ばりばり(笑)。理瀬は制服か、ゴスロリ風味のドレスでないと!(←偏見)。
 すっかり大人になった理瀬にまずびっくり。美術史を専攻しているとか、まぁ大きくなって…!(感涙) いや、物語世界からすると数年なんですけど。
 面白かったです。そうそう、恩田さんはこれでないと、ってゴシックな世界。ウィスキーに砒素入れたの誰?とか思いましたが、それ以外のミステリ部分は解明されたし。あと、アマンダの正体には素直に驚きました。
 恩田さん特有の「あるある」も健在、嬉しくなってしまう。「コピーで読むと、原典が伝えようとしているはずの情報のかなりの部分がこぼれ落ちるんだよ」。…成程、確かに。
 アーサーと理瀬の関係は思わせぶりに終わりました。続き書いてくれるのかな、恩田さん。17年より間空くのかなぁ; 待つんですけどね。

怖ガラセ屋サン 澤村伊智著 幻冬舎 2021年

 連作短編集。
 ネタばれになってるかも、すみません;

 第一話 人間が一番怖い人も
 「俺」も妻も、幽霊より人間が怖い、と思っている。ある日会社の後輩が婚約者を連れて遊びに来た。怪談ライブで知り合ったという二人、試しにと語り始めた内容は、とある学習塾で教えている青年の過去。その塾には、俺の子供が通っていた。

 第二話 救済と恐怖と
 シングルマザーの母は、パワーストーンにハマってしまった。貧しい生活の中、「パワーを込めた」石や水を購入し、サロンに通う。身の危険まで感じた娘は、殺したい相手を手紙に書いて願う都市伝説「うえすぎえいこさん」に頼った。相手を殺すというより、母に元に戻ってほしくて。

 第三話 子供の世界で
 緑川が車に轢かれて死んだ。彼は虐めを受けていた。首謀者は僕たちオタク仲間、きっかけは牛乳キャップにイラストを描いた自家製メンコが異様に上手かったこと。絵や二次創作の才能があった緑川は かえって疎ましがられてしまった。担任教師も実態に気付かず、的外れな注意をして緑川を絶望に追い込む。やがて、緑川から夢で頼まれた、という女性が牛乳キャップを集めて事故現場に供え始めた。

 第四話 怪談ライブにて
 四人の人物が怪談を語る。曰く、とある老人ホームの一室に「落ちる」夢を見る部屋があること。廃墟に行った先輩が、以来、幻視や物忘れが酷くなったこと。窓の外を横切る女性が萎びていくこと、デビュー間近のインディーズバンドのボーカルが、雪山に飛び出して凍傷で指を失ってしまったこと。やがて、客の中にいた女性が、飛び入りで新たな怪談を語り始める。真相を含んだ怪談を。

 第五話 恐怖とは
 古いアパートを張り込む男。車中で人気俳優の不倫を追っている最中、情報屋を名乗る女が乗り込んで来た。女性は彼の境遇を尋ねて来る。

 第六話 見知らぬ人の
 くも膜下出血で入院した。後遺症で記憶があいまいなまま、見舞いに来る妻と思い出の擦り合わせをする毎日。向かいのベッドの老人にも、若い女性が毎日見舞いに来ている。妻が話を聞いてみると、老人の知らない女性が、毎日見舞いに来て、訳の分からないことを言って帰るのだという。しかもその女性の姿は、老人と自分と妻の三人にしか見えてないらしい。

 第七話 怖ガラセ屋サンと
 「怖ガラセ屋サン」の都市伝説について調べる男。以前にも雑誌等で記事を書いていた人物はいたようなのだが、行方不明になっているらしい。…

 それぞれ独立した短編集かと思いきや、後半でだんだん繋がって来ました。「怖ガラセ屋サン」の名前はまちまちなので、その辺りは都市伝説に倣ってるんでしょうか。
 面白かったです。二重、三重のどんでん返し。「誰より人間が怖い」と言ってる人には、ちゃんと(?)人間が怖がらせるのね~。
 これも続編が出るんでしょうか。我が身の在り方も思い起こしつつ、でも逆恨みされる、ってこともあるからなぁ。今回、そういうのはありませんでしたが。

アニメ『平家物語』見ました。

 ここまで平家側に寄り添った『平家物語』があったかなぁ。…と言えるほど他の関連作品を知っている訳ではありませんが。でも、維盛を臆病者とせず、繊細として描いたのは驚きでした。栄華を極めた故に、逆境に弱かった平家の子供たち。現代の、平和に慣れた目から見れば、確かにこちらの方が心が近い。

 語り部の少女びわの「死者が見える」設定は、古川日出夫さんの別の作品『平家物語 犬王の巻』に倣ったのかしら、と思ったり。確かに、「語る」人物が必要だもんなぁ。
 3ヵ月で語り切るにはどうも時間が足りなかったような、木曾義仲とかもうちょっと描き込んでもよかったんでは、この後の源氏の行く末は、とも思ったんですが、でも「平家」物語ですものね。最後、資盛は生き残ったとみていいんでしょうか。残党狩りに怯える日々が続くのかもしれませんが。

 さて、『犬王』も映画になるようで。大河も相まって、鎌倉ブームですね。どれも色々な解釈に満ちて面白いです。